2007年12月19日水曜日

お隣さん マイク  2

機械工、設計士、デザインのマイクと三台のコンプユーターをつなげたNetwork が必要とコンピュータを買い込んだが、さて誰がその配線をする?普通は専門業者に頼むが、彼はわが社で働いている若い従業員トマスに目をつけた。彼はかつてワイヤーマンであったから配線は得意だ。プロの時間給は普通35ドルから40ドル。仕事帰りのトマスを呼び止めてアルバイトを勧誘した。それも相場の半分の額。しかしトマスは独身者、夜学へ通いいつかは薬剤師になるのだと勉強中。副収入は誰でも有難い。 早速週末と仕事の後にお隣へ行ってコンプユーターの接続配線を始める。新しく購入する機械も今ではすべてコンプユーターである。一ヶ月後には便利なトマスを丸抱えで雇った。いわゆる引っこ抜きである。こちらはまた新しく社員募集をせねばならない。しかし「去るものは追わず」本当はそんなことはどうでも良いのだ。 若い社員が少しでも賃金の良い職場へ移っていくのは悪いことではない、しかし、四ヶ月後、新会社設立の予算を大幅に出たマイクは見事にトマスを解雇した。

アメリカでは、履歴書に克明に職暦を書き出す必要がある。一年一年年数を追ってその間にくまなく就業しているか、空白があればそれを知りたがる。何故ならその空白期間に刑務所入りがある可能性、病気、短期間の就職と解雇の繰り返しと疑いを持たれるから。また職歴の欄にかつての雇用主の住所、電話番号が必要とされている。会社側としては照会をくまなくする。 わたしのところにも十数年も前に居た社員の照会電話を受け取ることもある。「この職場をなぜ辞めた」それが大切なのだ。 また解雇とレイオフ(リストラ)とは意味が違う。就業期間の極端に短いのも、尻が落ち着かないと嫌らわれる。もう一つは、 解雇には失業保険が適用されない。これは辛い。 故に私たちのような零細企業が資金繰りに困り従業員にやめてもらうときは、次の職場への推薦状を添えることもある。

予断になるが、 中型サイズの職場への就職になると、ドラッグ テストが必ず入る。 麻薬常習者では困る。履歴書の審査、面接が終わり、そこまでOKの出た求職者は次にお小水のテストが待っている。これも男性の場合はカップを手渡されてから提出するまで必ず人が付き添う職場もあるそうだ。不埒な奴が時々現れて、家族の一員のサンプルを隠し持ってきて出すのもいるそうだ。嘘かホンとか知らないが、妻のお小水を持ち歩き、それを提出したら、未来の雇用者から、「君は妊娠していますね」と言われたなどという話を聞いた。 我が家の息子や娘も学生のころのアルバイト先で何度も経験をしている。 かつて息子の秋夫が面白い助言をくれた。 ドラッグ テストの前日に「日本の七味唐辛子」の入った食事をすると、テストの種類によっては「要注意」の結果がでるそうだ。七味の中の香料のどれかが引っかかるそうだが、それが何か教えてくれたがもう忘れた。 

昔日本では、小学校で検便の日というのがあった。今もそれがあるのだろうか。その日の朝は学校中の生徒が登校前に自宅であの小さな容器を持って頭を抱え込む。 ある年、クラスの中のガキ大将が、自分は今朝弟が庭の隅で新聞紙の上に落とした糞を後ろから掠め取ってきたと豪語していたのが居た。
  数週間後に結果が出た。わたしたちのクラスの男性教師は一人一人名前を読んで、結果を伝えてからその用紙を生徒に渡す。生徒のプライバシーなんて言葉もなかった懐かしい昔の話しである。  傑作はそのガキ大将の名前が呼ばれたとき、教師は、大声で、彼の腹の中にはサナダムシあり、肝油を飲むグループに名前を書き加えていた。教師以外クラス中の子供たちは、それが彼の弟の物だと知っている、今こそガキ大将が自分の行動に責任を持つときが来た。クラス中の子供たちが腹を抱えて大笑いをしたのを覚えている。

2007年12月13日木曜日

お隣さん  マイク 1

相棒のマイクは多少人をコントロールする癖がある。親しみを持つのに時間のかかる人のようだ。
マイクとミッキーの二人でこれから設立する会社のイメージがどうやら違うように見える。 ミッキーが吸殻をポイと工場の床に捨てるのが我慢できないと、 吸殻のある箇所をガムテープでX字を貼り付けて歩く。 もちろん吸殻はそのままだ、嫌なら捨てればいいのに、それは彼の仕事ではならしい。ミッキーの汚れた手で壁を触り汚れたと、そこにもガムテープでX字を貼って置く。 最初それを知ったとき、「異常」?という言葉が頭をよぎったがそうではないらしい。本人にしてみれば、言い出したらきりがないし、喧嘩になるとでも思っているらしい。  一日の終りに旋盤やミルの上に鉄くずが残っていると毎日ミッキーは文句を言われている。鉄やステンレスを削れば切りくずがでるのは致し方ない。だが、マイクは工場をいつも綺麗に保ち、何時誰が新会社を見に来ても整理整頓がされていて、うちの工場はこんなにきれいですと見学してもらうのが営業の一つと心得ている。いまだ大きな企業の一員として働いていたときの習性から抜け出られず、思いつき一つ、指図一つで会社は動くと信じているようだ。

自営業とは、営業、生産、経理、庶務すべてを知る必要がある。 もちろん人を雇えばよいことだが。
 中国から移住してきたある若夫婦が新しい食堂を開いたが、数年で倒産した。 理由は簡単だった。 メニューの中のすべての料理を、オーナーが料理出来なかったから。もちろん彼らはコックを雇った。 そのコックが決めた料理すべてがメニューに載っている。 しかしコックといえども人間。 病気もすれば怪我もする。
計理士上がりの若い経営者は、毎日レジスターの後ろに座り、帳簿を眺め、お客に挨拶していたが、 店が軌道にのり、この分で行けば今年はもしかしたら黒字なんて喜んでいた頃合を見て、コックが給料値上げを要求した。 とても彼が支払われる額ではなかった。値上げを渋る店主に、コックは実力行使を使った。 翌日から出勤を拒否した。若い店主はそのときに自分の愚かさをさとったそうだ。  もしも、自分がすべてメニューに載っている品を料理できていたら生き残れたと。 社員が出来ることを雇い主ができないようでは足元を見られるだけのこと。 

独立した人が必ずしもノオハウをすべて知っているとは限らない。普通自分の専門を生かしたくて始めるケースが多い。  朝の会議に出て、秘書にコーヒーを持ってこさせて、なんてしゃれたものはもうない。コーヒーを淹れるのから床掃除まで経費を節約したかったらすべて自分たちでしなければならない。現在のアメリカの銀行は小企業に資金を貸さない方針になっている。理由が面白い、借財の額が小さいからだそうだ。借金をするなら大きくしろというわけだ、自営業の必要とする小額では書類仕事に時間がかかるだけで経費の無駄だという。

マイクも必死なのはわかる。彼が誰かと話し合いたいのもわかる。絶え間なく我が事務所へ設計図を持ち込み、こちらの働き手の意見を聞きに来る。 新しく購入した機械の使い方、電気の配線、果てはコンプユーターの使い方まで聞きに来る。 なんかカラースさんを思い出す。事務所を開くことに関する質問であったらいくらでも助けるつもりだ。かつてはわたし達が始めたときも誰かのお世話になっているのだから。しかしそれが収益を伴うビジネスに入ってくるとこれは別である。こちらはわが社の働き手にいい加減にするようにと注意したが、笑っているだけだ。しかし私としては死活問題である。夕方の仕事の後とか週末であるなら構わないが、営業時間では困る。この業界は知識、博識、経験は現金収入につながる。だからコンサルタントという商売が成り立つのだ。 自営業とは、毎時間オーナー自身が働き続け、収入を出さないと運営していけない。毎日が戦いである。
ある朝、いつものようにマイクが事務所に現れた。  「彼居る?」もちろん居るさ、いなきゃ困る。 「ちょっと相談だけどね、」と私の事務所の前を通って奥へ消えた。
30分後にドアを押して出て行こうとする彼に私はにっこりと微笑んで「問題は解決しました?」と聞いた、マイクは、「解決しました」
そこで私は囁いた「請求書は後で送りますから?」それ以来マイクは二度と事務所へは来なくなった。その二ヶ月後に彼はコンサルタントを雇った。最初からそうすべきだったのだ。ただ乗りはいけません。

2007年12月6日木曜日

お隣さん ミッキー 

赤毛の女性が大好きなミッキーは小規模な会社の半分オーナー。 彼は作る人。彼もドナルドと同じ精密機器の職人さん。設計と営業担当はイギリスから移住してもう二十五年、最近やっとアメリカ市民権を取る準備を始めたエンジニアーのマイク。彼が後の半分のオーナー。 この二人は水と油ほどの性格の違いがある。どうしてこの二人が一緒に仕事をするきっかけがあったのか不思議なのだが、半年ほど前にお隣の建物に入居して新しく特注カプリングの会社を設立した。

ミッキーは一日が終わると、子供が泥んこの中に横臥して遊んだように汚い。機械工だから汚れるのはわかる。しかし同じ機械工でもドナルドはあんなに汚くない。共に黒のT-シャツに黒のジーン。機械の前に立つときは野球帽をかぶる、細身で長身までは同じなのだが、ミッキーは違う、タバコを吸っても灰皿を使わない。彼が歩くとゴミが集まるっていう感じ。鼻髯にあごひげ。長髪。女性と話しをするときなどいともやさしげにニコニコするのだが、髯ボーボーのおっさんがニコニコするとニヤニヤに見えるから不思議だ。
 
週末に友人二人とミッキーはサン アントニオへ出かけた。帰宅途中昼食はファミリースタイルの食堂でと決め込んだ。皿の上に大盛に盛られた食事は中年以降の三人には不覚にも食べきることが出来なかった。そこへ店主のデブオバチャンがいつもの顔ぶれと違う彼らのテーブルへ挨拶に来た。ミッキーの肩に手を置き、食事はどうでしたか?とにこやかに聞く。 三人とも美味しかったと答えた、オバチャンは、皆さんまだ食事は終わっていないようですね?と皿の上の食べ残しを見る。あなた方アフリカでは、食べる物も無くて飢え死にする子供が現在も沢山居るのを知っていますか? とジローと三人を見る。 ここに食べ残された皿の上の食べ物で何人の子供が今日も生きられると思いますか?ジロー。こんなに食べ残して、あのアフリカの子供たちに申し訳ないと思いませんか ジロー。
やさしく諭されたテキサス男たちはシュンと悔恨の念に囚われ、背筋を伸ばして素直に「イエス マーム」と答え、目を白黒させてもう一度フォークを手にして自分たちの食べ残しを腹に詰め込んだ。大いなる人間愛、これぞまさにファミリーレストラン。

ネー、 自分たちが、食いたくないのに、腹に詰め込むことがどうしてアフリカの子供たちを助けることになるの? 毎日食事が出来ることを何故申し訳ないと感じなければいけないのかね。 アメリカの政府は、税金をガッポリとかき集めてアフリカなど第三国へ配っているのと違うの? 自分は、十六才から働き通しですよ。 休みなく働いて、 仕事をしなければ家族を養えないから。自分は一度も社会福祉へ援助を頼もうと考えたこともない。 俺アフリカの子供たちへ機械の使い方教えに行こうかな?そうすりゃ彼らももう飢えないだろう? そんなことをぼやきながらわたしの事務所のコーヒーを飲みに来る。自分たちの事務所では相棒のマイクの淹れるコーヒーが美味しくないのだそうだ。 それなら自分で淹れたら?というと、マイクが自分の淹れたコーヒーを捨てるとボヤク。ソレッテ、ミッキーもマイクの淹れたコーヒーを捨てるの? ウヒヒーと笑うミッキー。同意が出来ないのはコーヒーばかりではないのだが。