2008年1月24日木曜日

運転 2

一般に車のスピード違反チケットは警察官一人に一日何枚とノルマがあるそうだ。 この情報はラジオのDJ番組からだが、警察の予算が足りなくなると、日によっては警察官一人に七十五枚のノルマが出る。その日は何がなんでも七十五件のスピード違反を捕まえなければ署に帰れないそうだ。 ふざけた話だ。
時たま一斉取締りに出会うことがある。この場合はもう観念するより仕方ない。高速の出口に数台のパトカーが止まり、降りて来る車を次々と止める。70マイルやそれ以上のスピードで走る車で高速を降りてくるその瞬間はどうしてもまだスピードが残っている、それをスピード違反といわれれば逃げようがない。 一時間もすればニ三人の警察官のノルマはこなせる。
たとえ理不尽と判っていても、アメリカの警察官に決して言い返してはいけない。 彼らの体に触れてもいけない鉄則がある。 警察官に理由は聞けない。 疑問があったら裁判所ですればよい。そして決して忘れてはいけないことは、警察官は拳銃を持っている。彼らは毎日緊張感からいつも短気でイライラしている。連帯感が異常に強い。権力を楽しむ。これが私の感想だ。 警察官に口答えをしたために生きて家へ帰れなかった哀れな人がどれほど居るだろう。お気の毒に。

この理不尽な理由からチケットを受けた人たちがどうにかして遁れようと弁護士の事務所へ行く。これを交通チケット弁護士と呼ぶ。 懲罰が増えると自動車保険が高くなる。会社によっては次期更新を断る。だが自動車保険を持つことは法律で定められている。だから保険会社は居丈高になる。 買ってもらうのではない、売ってやるのだ。一度事故を起こせばたとえそれが被害者側であっても彼らは容赦なく倍額の保険料を請求するか、更新を断る。そして彼らは「落ちこぼれの集まる」(ハイ リスク)保険を買わざるを得ない。それでなければ明日から車を運転できない。そこで六ヶ月ほど罪の償いをしてから又普通の保険会社へ戻る。しかし忘れてはいけない、会社を替わるたびに、新規契約で会社は一時金を請求できる。書き換え料最低百ドル。

チケット弁護士とは、裁判所へ同行、手続き、裁判長への懇談(ベンチのところでコソコソとするあれだ)そして一回分の罰金の変わりに弁護士料を払う。それなら何故弁護士の元へ行くか? 記録を消して貰う為。 駐車違反、スピード違反、座席ベルト違反、車検や登録料期限超過違反どんな違反でも記録に残れば次の更新時に金額が上がるのを遁れる為だ。どちらに転んでも被害者は一般人、これを警察―保険会社―弁護士の三者結託でなくてなんであろう。

社会はコンピュータの開発進歩を喜ぶが、その開発された情報網によって自分の首を絞めているのではと嘆きたい。 一度でも罰金を支払った過去があれば、 一度でも保険会社へ故障の支払いを申請すれば、一度でも毎月の保険料の支払いが滞納すれば、どこの会社でも記録が引き出せる。そして「お客様の過去の記録によりまして、」ハイ リスクのグループに入っていただくか、よそを探していただきます。 最近では個人のクレジットのランクを見て一般保険購入が出来なくなってきている。  クレジットカードの支払いが滞納していても、利息率の高いクレジットカードの保持者でも住宅保険、自動車保険、健康保険、浸水保険が買えなくなるそうだ。 
このように締め付けられる故、保険を持つ人の人口が下降線をたどり、事故が起きても逮捕されるのを恐れて「当て逃げ」が増える。  
あの日にあの道を通ったあなたが不運でした。
 
     

2008年1月10日木曜日

運転 1

玄関のドアがバターン。そうであった今日は娘が三週間分の洗濯物をもって来る日だ。飛び込んできた娘は床にあるものを蹴散らかして一目散にトイレへ駆け込む。子供のときから百万遍「出かける前にはトイレへ行きましょう。公衆のトイレはなるべき使わないようにしましょう」と育ててきたが、娘にはこの躾はダメだった。父親が、自分の娘は犬コロと同じで自分の行く所へ必ず印をつけて歩くと笑うが、娘盛りになってもそれは治らない。
直美に言わせると、「悪いのはママ、小さな膀胱をわたしに付けた」と恨む。
今日も脱兎のごとく洗面所へ飛び込む。私とてトイレへ駆け込んだことがないとは云わないが決して見栄えの良い図ではない。もう少し何とかならないものかと願うのだが、まさか行くなともいえない。 出てきた娘はフーットため息をつき、さて次の問題を始末するかとかなんとかモソモソ言いながら又外へ出て行った。 窓の外を見るとパトカーが屋根の上をピコピコと点滅させて我が家の前に停車、ポリスがクリップボードを手に待機していた。

やっと今日の授業が終った。洗濯物とタッパー容器は朝アパートを出る前に車に積み込んである。 彼女はペットボトルを片手に車に乗り込み我が家めがけて出発。 距離としてはせいぜい30マイル。時間にして30分と思いきや高速へ出て車の列はストップ。渋滞に重ねて事故が突発したらしい。もうノロノロ運転を通り越して動かない。携帯電話を出して友達とおしゃべりしながらペットボトルの水をグビグビ。しかし水は体内に入ったらいずれは出なければならない。彼女はハタと気がついたがもう遅い、高速の渋滞とは前へも後へも行かれない。 ジット我慢の人とならざるを得ない。暫しの間にがまの油ではないが冷や汗が出てくる。ガタガタ ブルブルと体を振っているうちにやっと車が動き出した。 渋滞は一度詰っている箇所がなくなるとすぐに元のスピードに戻る。そこで彼女の悪癖が又出た。彼女は多少スピードの出しすぎの気がある。 直美が走り出すと速い、それに速くしなければ悲劇が起きるかも、もう止まることが出来ない。 スイスイとごぼう抜きの運転は目立つ。 そしてポリスが見つけた。 屋根の上を点滅させたパトカーはサイレンを鳴らして止まれとサインを送るが悲しいことに止まれない。 高速を降りてもサイレンは聴こえる。住宅街に来て前方に一時停止、冗談じゃないあと数ブロックでママの家止まっていられないとそれも無視。パトカーを後ろにへばり付かせたまま家に着く、ドライブウエーに乗り上げ、彼女は車から飛び出てポリスに手を振って家に走りこむ。

辛抱強く待っていてくれたポリスは
「自分は洗面所へ駆け込む女の子をここまで追いかけていたのか?そんなこと早く言ってれよ」「すいません、止まって説明している時間がなかったのです。本当にごめんなさい」と平謝りに謝る娘に「今回だけだゾ、今度はもっと余裕を持って高速へ乗るように」と親切なポリスはお説教だけで懲罰は免除された。

しかし、今回は運が良かった、彼女のスピード違反、駐車違反で受ける懲罰や、召喚状はまず我が家の最高記録を破っている。 最近では、病院の患者の少年を図書館へ連れて行く途中にポリスに止められたそうである。恥ずかしいことだ。 あの時は制限速度で走っていたから裁判所でプロテストするのだ、そのときはあの男の子が証人に立つと約束したと言う。 あなたそれは約束してくれたのではなくて、約束させたのと違うの?出廷日にその子がもう退院していたらどうなるの?  

彼女の父親もスピードの悪癖があり、昨年受けたチケットをいつものことと弁護士へ手渡したら、「たびたびのお客様今回は特別サービスで弁護士料を割り引かせて頂きます」と事務所の女性の言葉に、さすがに少し恥ずかしかったらしい。それ以来捕まっていない。 しかし直美は酷い、十六歳で運転を始めて最初の一年間で懲罰七回と我が家の最高記録。息子の秋夫が始めて止められたのが二十八歳のときだからさしずめ兄の分もセッセと頑張っている。

大学がカトリック系の私立校のためマンモススクールと違いすべてが小さい。校舎も小さいが生徒用駐車場などはほとんど無いに等しい。それゆえ早もの勝ちである。 いつも時間ぎりぎりにドタバタと駆け込む彼女、一日の授業が終わって自分の車へ戻ると駐車違反の紙をフロントガラスに見つけることが何度あっただろう。
毎朝左手に携帯電話、右手にコーヒーマグ、食卓の上の朝食を二枚のパンに挟んで食べながらトヨタのシフトの車を運転しながら通学、いったいどの手でハンドルを持っていることやら。   
捕まらないほうが不思議だ。
神様とは有難い、あのような女の子でもまだまだこの世に使い道があると考えて下さっているらしく生かしてくだる。 感謝しなければ。