2008年4月29日火曜日

セクハラ

短い冬と春を急行電車のように通り越してもう初夏の暑さがやって来た。昼間は冷房が入る日々になったが、これがあと一週間もすると冷房24時間となる。 車の中も、職場も買い物のスーパーもデパートもそして家庭の中も冷房の中で暮らすこの街の人たちの健康が良いわけがない。  若い者は時間を作っては公園や道路の端を利用してのジョギングとなり思いきり体内から汗を吹き出し健康を保つ。 しかし大半の人たちは運動の変わりにカロリーの多いスナックを食しながらのテレビのスポーツ観戦となる。自分がゴルフをせずに人のゴルフプレーを見ながらプレヤーの変わりに食べて肥ってあげているようなもの。

肥満の平均年齢は毎年下がっているようだ。今では14-5歳の少女がその波にのり、肥満と一緒に備わるホルモンの分泌も上昇するようで、少女とは思えない挑発的なタイトなTシャツはヘソ出しルック。出すのが臍だけならまだ良い、後ろに回ると股上の短いパンツから尻の割れ目が垣間見えている。道に物が落ちていても間違っても拾うなよと提言したい。 

昨今の米国のテレビ番組は女性上位の頂点に達した。 刑事番組で二人の刑事の一人は女性になる。 長いストレートの髪の毛を両側にだらりと垂らし、 あれでよく逃げる犯人を走って追いかけられると感心する。 彼らが警察署に戻っての報告場面で出てくる上司の半分は女性。それも黒人女性が何故か多い。 資料室のコンピュータ ルームの専門家は今では東洋人の役者が定番だ。 外で足を棒にして駆け回る刑事は白人、署内で命令を下す上司は黒人、そして研究や資料室の中は東洋人。 これが平均的に文句の出ない現在のアファーマティヴ アクシオン (積極的差別是措置)となる。テレビ、映画の世界も気を使っているのだと感心する。

しかし気になるのは、どの番組を観ても女性の胸元だ。 私がムナペチャの一生を生きなければならない悲劇の女性として遺憾である。

豊な乳房というがあれは脂肪の塊なのだ。私はそう信じている。もしかしたら違うかもしれないがマア良い、私はそうしておく。そのほうが気分が良いから。 ほっそり型(??誰の事かな?)の女性には脂肪の塊は縁がないとしておこう。

だが、豊胸手術が日常茶飯事の昨今、家庭の主婦でも、独身女性でも、はては未熟な18歳程度の女子までも整形をする。 そしてどうせ高い資金で誂えた二つの乳房、ひとり悦に入っているのでは採算が合わないとでもいうのか、世の中へ見せて歩く。

そして出来上がったのが、ガリガリに痩せ、目がくぼみ、頬がこけた女優が巨大な胸元をこれ見よがしに(ひがむ私にはそう見える)半分出して、体を前に傾けて、犯人に尋問をしている、或いは同僚の男性社員と歓談している場面を観せられることになる。 周りの人が気の毒になる。 あれを見つめればセクハラになる。かといって無視すれば、彼女が折角披露しようとしているチャームポイントの意味がなくなる。 はてサテ世の中とは面白い。 

2008年4月24日木曜日

亭主バイクに乗る

六十七歳という年齢で我が家の亭主はオートバイに手を染め始めた。まったく麻薬のように。もう四十年も昔に遊んだ玩具に又郷愁を感じるとは、これ幼児帰りかいなと気になるが、まあ仕方があるまい。人それぞれ。 

バイクは一人で走るのと、つるって走るのとあるらしい。横に並んで走ることで道の両側を使うゆえ、後ろから来た車に横を占領されない。 兎に角いろいろと理由はあるらしい。 どちらにしても趣味として乗る話で、通勤とか仕事でバイクを使用するにはそうは行かないであろう。

何処で見つけたのか、沼地に一年ほど漬かっていたような、バイクらしき原型の留めた物体を年寄りバイクの先輩ネッドと二人でエッコラ、ヨッコラとガレージへ運び込んだ。もう二人ともニコニコと笑いっぱなしだ。蛙を捕まえて家に持ち込んだ息子の小さい頃を想い出す。

洗車場で泥落としから始まり、エンジン、カーブレーター、トランスミッシオンと何でもでも取り外し、分解し、洗浄、また組み立てる。

夏を通しての六ヶ月間は帰宅後、週末の二日間は腹がすかなければ屋内には入ってこない。暑いガレージでタラタラと汗を流しながらの化粧直しに組み立てを繰り返えす。

Googleで検索しては、塗料は何処で買える、このシリンダーは何処に売っている、このオーリングは何処が製造元かともう忙しい。 何せ1982年版の車、製造元でもマニュアルはもうない。

お向かいのテイラーさんもその隣のマイクさんも週末になると、コーヒーカップを片手に陣中見舞いに来る。男と云えども、彼らは本当に姦しい。あーでもない、こーでもないと女性群顔負けだ。彼らの女房達はソットわたしに囁く。 亭主の生命保険を倍額にしろと。

1982年版、ヤマハXJ1100J Maximは六ヶ月の月日と、莫大な費用と、そして当人は体重五キロも痩せての結果、ガレージでピカピカと輝いている。

永い苦労の道のりでやっと此処まで来た、これで近所を乗り回すのかと思いきや、颯爽と我が家の前に現れたのは細身の体を黒の革ジャン、革パンツに黒のヘルメットに黒のハーリーデイヴソンに跨ったジェフ。

バイクはハーリの権化のような男。カリフォルニアまでも一人でハーリを飛ばしていく男。猛烈な無口だから出来るのであろう。

そのジェフが生まれ変わったヤマハXJの試乗運転をする。

簡単に言えば、亭主君はまだ乗るのが怖い。エンジンを掛けてバイクが横すべりを始めたら困る、昔の感覚なんて頼りにならないことは当人もご承知らしい。そこでジェフ君のお出ましとなった。

 XJのエンジンは一度でかかった、ジェフは何度も繰り返してスタートしては走り出し、戻ってきてなにやらご託宣を告げる。

タイヤの空気、ハンドルの曲がり具合、エンジンの音やかかり具合、ガソリンの臭いと、いくつかの押しが出たあと、「調子良いよ、来週は一緒に乗り出そう」と誘われ胸を詰まらせて喜ぶ亭主だが、まだまだこれからすることが沢山ある。

バイクの登録、ライセンスの取得、車検、保険、ヘルメット、バイク用上着、手袋、サドルバッグ延々と費用のかかることを並べる。

2008年4月11日金曜日

十五歳男子

十五歳男子。 この心療クリニックへ来てもう三ヶ月になる。そろそろ退院の準備が始まる。この心療クリニックは三ヶ月が一期間となり、その後も入院継続は、入院結果と両親と医者との話し合いとなる。 

少年は自分の父親から七年間の性的虐待による精神の壊れ、また父親からの隔離生活を強いられてこのクリニックに居る。世の中には本当にどうしようもなく悪い奴は居る、それを乗り越えて生きなければ成らないのがこの世だけれど、やはり幼い者が被害者だと胸が痛い。

三ヶ月のカウンセリングで、少しずつ現実を受け入れ、 それでも自分は生きて行かなければならいと再確認が出来始めた矢先に、父親の訪問を受けた。

病院スタッフ同席の上での父親との面会が始まって数分後に少年の怒りが爆発し彼は父親に飛び掛って行った。七年間延々と受けた虐待に初めて自分で立ち上がることを覚えたのだろうか。父親に殴るかかった少年を黙認するわけには行かないクリニック側としては、数人のスタッフによって少年を取り押さえ、父親には退席を要求してその場は済んだ。

気持ちの持っていく場所のなくなった少年は壁に向かって自分の体をぶつけ始めた、何度も何度も体当たり、そしてそれが頭に変わり、少年の頭から出血が始まった。それでも彼は止めない。血をタラタラと垂らしながらも自分の頭を壁にぶつけ続ける。

少年は最終的にはベッドに縛りつけられた。 彼がそれ以上自分を痛めつけないためにそうするより方法がないそうだ。

ベッドに縛り付けられるのはわずか十五分間、彼が少し冷静になればすぐに解いて貰える。その間は必ず誰かが少年の傍に寄り添っているそうだ。

実際の悲劇はこれではすまない。 少年が無事退院出来るとき、彼はまだ十八歳未満、それでは何処へ帰るのだろう。少年を虐待した父親の保護の下へ帰るか、養護施設か、それともフォスターホームである。

十八歳になり、法律的に独立出来る年齢になり、少年は一人、社会で生きて行くときまで自分の居る場所は自分で決められない。

なんともストレスの多い仕事である。 

2008年4月10日木曜日

職業癖

大学を出てから二年間の浪人生活にもやっと嫌気が差したのか、わが娘さんもついに大学院へ入学した。


専攻は臨床心理学。やはりクリニックの仕事から影響を受けたのだろう。 何故なら、つい最近までは、どの分野にするか決めかねていたのだから。 しかし、専攻分野を決めるのに二年は長かった。しかしレストランで自分の食事をメニューの中から決めるのに二十分は必要な娘のだ致しかあるまい。彼女も未だ若いのだ、のんびりやるさ。


これからは、やりくりして、午前中は大学院、午後は十一時までクリニック。火曜日と木曜は一日中授業。土曜と日曜はクリニック勤務。二週間に一度日曜日が休みになる。


毎日の食事はクリニックか、学校のキャフェテリア。最近はじめた一人暮らしのアパートの掃除は当分あきらめて、二週間目の日曜日は寝貯めと、母親の家へ帰って二週間分の洗濯と二週間分の栄養補給。そしてこれからの二週間分のアパートでの食事を母親の冷蔵庫から自分の持ってきた幾つかのタッパーへ移して帰宅。ついでにボーイフレンドのアダムも大学院生一歩を始めたのを期に二人はサヨナラをした。お互いに頑張りましょう。 いつまでも友達で居ましょうと決めたのだそうだ。


心療クリニックで働き始めて、彼女にも職業癖が付いた。 誠に遺憾である。
「超早食いになった。」


我が家の食卓に座って、未だこちらがサラダを食べているのに、娘はメインのステーキをペロリと終わらせている。


何じゃそれは?君はまだ未婚の女性だゾ。もう少しオチョボグチでゆっくりと噛め、と、文句を言いたい。


一般に拒食症の子供は味の付いた食事を好まないそうだ。そこで皿の上の食べ物を黄色いマスタードでべったりと塗りつぶす。マスタードはわずかな味とカロリーがないから彼らの唯一の香辛料などだそうだ。これから食べる食事を真黄色にして、眼をつぶって、ガボット口へ持っていく。規律は自分の食事は全部食べるとなっているから。


男子達はただ皿の上に食品がのっていればよろしい。味を楽しむなんてことは考えない。


故に12名の子供を引き連れて夕食を共にしても、サラダからデザートまでを済ますのに五分とかからない。一斉に初めて、直美が下を向いて一口、二口終わらせた頃には、ほとんど全員の皿は空になっている。しかし全員食事が終わるまでテーブルは立てない、また食卓でキョロキョロするのもマナー違反。皆な下を向いて一人いつまでも食べている研修生が終わるのをジッと待っている。 顔は下を向けているが、二十四の瞳はしっかりと上を向いて「アイツまだ食っている」と睨んでいる。


食べた気分にならないから、私も食事は呑みこむことを訓練したと。


もうどの子にも負けないくらい早いワヨと自慢する。わたしネ ハンバーガーを三口で終わるよ。 そんなこと自慢するナ、恥ずかしい。

2008年4月4日金曜日

直美24歳

15歳「自殺願望」の女の子.

両手首の傷はもう場所がないほど数が多い。どんな状況でこの世に産まれてきたのか知らないが、またどんな事情の中で育ったか知らないが、 未だこの世の生活たったの15年間だけだ。 

人生なんてまだ始まっていないではないか。それなのに死にたいという。

死への誘惑、それは甘美なもの。 あの誘惑は海の渚のように、押し寄せては、また引いていく。それの繰り返し。 何時かその誘惑にのってみたい。そんな経験なら誰にでもあるだろう。

女の子は、リストカットはすぐに見つかってしまうから駄目と悟ったようだ。そこで昨晩は、風呂の中へ電気スタンドを持ち込んで入浴をしようとしているところを見つかった。

今日もまた夜が来た。 勉強の時間も終わり、サロンでテレビとゲームの時間も終わった、みなが自分の部屋へ戻って寝る時間。

友達がベッドの中で睡眠をむさぼっている間に、女の子は何処からか盗んできた鋏でシーツを細く切り刻んで紐をつくる作業に余念が無い。
長い紐が出来上がった。

風呂場のシャワーにしっかりと結びつけた。その紐の先端を自分の首の周りに巻きつけ、一気にバスタブの端から降りた。

彼女はたったの15歳で一人旅へ出かけた。もう二度と帰ってこないつもりのこの世に彼女はどんなサヨナラをしたのだろうか。

他州からこの街へ移動中の心療クリニックがやっと稼動を始めた。 長い訓練期間も終わりやっと精神科医の助手(研修生)の仕事が始まった。

 短大の就職斡旋課の仕事も、夜のお仕事、ホテルのバーテンダーの仕事も辞めた。

この研修生の仕事一本で行きますと心に決めての初登板。投薬よりもカウンセリングを主体とする心療クリニック。 13歳から18歳まで、青年期の男女の病棟が我が愛する娘直美さんの管轄。 青年期の心療患者は精神科医を目指す人たちには誰もが一度は働きたい病棟であるとか、そして、ストレスが多すぎてみなが逃げる病棟でもあるそうだ。 

患者はアメリカ各州、イギリス、カナダ、インド、メキシコ、ヨーロッパ諸国から集まる。 親の経済力と英語圏であるなら入院できる。

自殺願望、拒食症、自閉症、登校拒否、躁欝症、あらゆる種類のADD(注意欠陥多動症症候群)性的虐待、暴力虐待、精神的虐待、精神分裂症、トラウマ障害、バイポーラ。

この病棟はパジャマを着て、投薬で一日中フラフラしている重症精神病患者たちとは違う。 平服を着、学業をつづけ、個室を持ち、寮生活に近い生活をしている。 その中で、カウンセリングを続け、規律のある生活の中で、世の中そんなに甘いものじゃないと訓練を受けるのだ。

入院患者には、さまざまな理由がある。 両親と隔離する必要のある子。学校の落ちこぼれ、登校拒否、小さな犯罪の結果裁判所の判定が少年院送りの代わりに心療所送りとなった子供たち。

直美の仕事は、学業時間、運動時間、食事時間、医者とのカウンセリン、グループカウンセリングのときいつも行動は一緒、患者の生活レポートを書くのだそうだ。ウオッチ マンである。直美の勤務時間は午後二時から夜の十一時まで。

相手が子供と甘く見てはいけない、ほとんどの患者は自分より背が高いと嘆いていた。 一癖ある子供たちがズラリと並んで、出来立てホヤホヤの研修生の初出勤にウスラ笑いを浮かべていたと直美君ボヤク。

IQが天才ではないかと間違えるほど高い子。父親がジェット機を持っている子。子供をこの病院へ入れて両親はヨーロッパへ世界旅行に出かけてクリスマスになっても、親が何処に居るか知らない子。

直美君ガンバレ