ある大学でお互いに知らない者同士の男子生徒二人一組、女子生徒二人一組と分けて、各々空いた部屋へ一時間ずつ入れ二人がどのような会話をするかモニターに取るという調査をしたそうだ。
知らない者同士の会話は男子生徒には苦手のようでなかなか始めないが、一度会話がはじまってしまうとお互いにリラックスして楽しげに話しをする。ところで男子生徒の会話の内容は一様にセックスかスポーツだったそうだ。
一時間後に各々会話の内容を質問する。 男子生徒の回答は殆ど皆な同じだったそうだ。「サー何を話したかナ。 憶えていません!」
彼らが回答を避けているのではない、本当に一時間後には自分たちがしていた雑談の内容などはもう記憶にない。
あまり逢うこともない弟に主人が電話で話しをしている。自分たち家族の近況から仕事の話まで楽しそうな会話である。 30分ほどして電話を切る夫に妻が訊いた。ずいぶん楽しそうだったわね、何を話していたの? しかし夫の答えは「 サー何だったかな? とにかく弟は元気だった。」それでおしまいである。
何故自分には電話の内容をおしえてくれないのだろうと妻は不思議に思うが、夫はどんなことを電話で話したか、妻に説明が出来るほど憶えていないのだそうだ。
女性たちは7年前に夫がどんな悪さをしたか、 5年前にどんなきっかけで二人は大ゲンカをしたか、その際、夫は何と云ったかまで克明に記憶があるのに、彼らにはない。それゆえ、なにかが起きて、その昔に似たような事が起きたことを記憶の中から出してきて夫にそれを正しても全く相手にならない。 「そんなこと言ったことない」「知らん」「君は誰かと間違えている」「絶対に自分ではない」としらを切る。火に油を注がれたがごとく烈火のごとく妻は怒って、「この卑怯者」と恨んでも仕方がない。夫は本当に何も記憶にないのだから。「そんなこといちいち憶えているほどこっちは暇ではない」と心の中で毒づいているのである。
十年ほど前から私の夫は家族とのコミュニケーシオンが難しくなった。本人はそのようなことはないと主張するが、妻である私の話があまりよく聴こえなくなったらしい。 何を話しても人の顔を見ているだけで、反応がない。 私の話を訊いているの?と尋ねると、訊いていると答えるが、結果が出ていない。時には私の話に合わせて「ウン、ウン」とうなずいたりするが、あとで話しが何であったか問いただしても返事が出来ない。 「アナタ聴いているの?」返事は勿論「聴いているよ」それだけである。 もしや難聴になったのではと心配して、娘が父親を耳鼻咽喉科の検査に同行した。医者から事前に、いつも一緒に住んでいる家族の方が検査に同席して下さいと言われたから。
検査の結果は、難聴の疑いナシと出た。 全く普通の人と同じように聴こえているのだそうだ。医者の話によると、夫は夜の睡眠中以外は頭の中は仕事の事を考えている人間であるため、良くそのような患者に起きる症状だそうだが。耳の中にフィルターがあり、それが音声を聴き分ける。今自分が考えていることに大切な情報をもたらす音声のときはフィルターが全開してよく働くが、聞こえてくる音声が自分には何の利益を伴わないと判断するとフィルターが閉じてしまう。
「娘さん、結局あなたのお父さんは良く聴こえているのです。ただ、あなたのお母さんの声やあなた自身の声には時々フィルターが閉じてしまうのです。 もう頭の方が別の事を考えているのですよ。 実は私も最近は自分の妻の声はもう聴こえません、申し訳ないと思うのですがね」妻の声に体が拒否反応を示す。 恐れいりました。私も夫の為に食事、洗濯を作る時は体が拒否反応を示して手が動かなくなったらどんなに気持ちが良いであろう。