2007年12月13日木曜日

お隣さん  マイク 1

相棒のマイクは多少人をコントロールする癖がある。親しみを持つのに時間のかかる人のようだ。
マイクとミッキーの二人でこれから設立する会社のイメージがどうやら違うように見える。 ミッキーが吸殻をポイと工場の床に捨てるのが我慢できないと、 吸殻のある箇所をガムテープでX字を貼り付けて歩く。 もちろん吸殻はそのままだ、嫌なら捨てればいいのに、それは彼の仕事ではならしい。ミッキーの汚れた手で壁を触り汚れたと、そこにもガムテープでX字を貼って置く。 最初それを知ったとき、「異常」?という言葉が頭をよぎったがそうではないらしい。本人にしてみれば、言い出したらきりがないし、喧嘩になるとでも思っているらしい。  一日の終りに旋盤やミルの上に鉄くずが残っていると毎日ミッキーは文句を言われている。鉄やステンレスを削れば切りくずがでるのは致し方ない。だが、マイクは工場をいつも綺麗に保ち、何時誰が新会社を見に来ても整理整頓がされていて、うちの工場はこんなにきれいですと見学してもらうのが営業の一つと心得ている。いまだ大きな企業の一員として働いていたときの習性から抜け出られず、思いつき一つ、指図一つで会社は動くと信じているようだ。

自営業とは、営業、生産、経理、庶務すべてを知る必要がある。 もちろん人を雇えばよいことだが。
 中国から移住してきたある若夫婦が新しい食堂を開いたが、数年で倒産した。 理由は簡単だった。 メニューの中のすべての料理を、オーナーが料理出来なかったから。もちろん彼らはコックを雇った。 そのコックが決めた料理すべてがメニューに載っている。 しかしコックといえども人間。 病気もすれば怪我もする。
計理士上がりの若い経営者は、毎日レジスターの後ろに座り、帳簿を眺め、お客に挨拶していたが、 店が軌道にのり、この分で行けば今年はもしかしたら黒字なんて喜んでいた頃合を見て、コックが給料値上げを要求した。 とても彼が支払われる額ではなかった。値上げを渋る店主に、コックは実力行使を使った。 翌日から出勤を拒否した。若い店主はそのときに自分の愚かさをさとったそうだ。  もしも、自分がすべてメニューに載っている品を料理できていたら生き残れたと。 社員が出来ることを雇い主ができないようでは足元を見られるだけのこと。 

独立した人が必ずしもノオハウをすべて知っているとは限らない。普通自分の専門を生かしたくて始めるケースが多い。  朝の会議に出て、秘書にコーヒーを持ってこさせて、なんてしゃれたものはもうない。コーヒーを淹れるのから床掃除まで経費を節約したかったらすべて自分たちでしなければならない。現在のアメリカの銀行は小企業に資金を貸さない方針になっている。理由が面白い、借財の額が小さいからだそうだ。借金をするなら大きくしろというわけだ、自営業の必要とする小額では書類仕事に時間がかかるだけで経費の無駄だという。

マイクも必死なのはわかる。彼が誰かと話し合いたいのもわかる。絶え間なく我が事務所へ設計図を持ち込み、こちらの働き手の意見を聞きに来る。 新しく購入した機械の使い方、電気の配線、果てはコンプユーターの使い方まで聞きに来る。 なんかカラースさんを思い出す。事務所を開くことに関する質問であったらいくらでも助けるつもりだ。かつてはわたし達が始めたときも誰かのお世話になっているのだから。しかしそれが収益を伴うビジネスに入ってくるとこれは別である。こちらはわが社の働き手にいい加減にするようにと注意したが、笑っているだけだ。しかし私としては死活問題である。夕方の仕事の後とか週末であるなら構わないが、営業時間では困る。この業界は知識、博識、経験は現金収入につながる。だからコンサルタントという商売が成り立つのだ。 自営業とは、毎時間オーナー自身が働き続け、収入を出さないと運営していけない。毎日が戦いである。
ある朝、いつものようにマイクが事務所に現れた。  「彼居る?」もちろん居るさ、いなきゃ困る。 「ちょっと相談だけどね、」と私の事務所の前を通って奥へ消えた。
30分後にドアを押して出て行こうとする彼に私はにっこりと微笑んで「問題は解決しました?」と聞いた、マイクは、「解決しました」
そこで私は囁いた「請求書は後で送りますから?」それ以来マイクは二度と事務所へは来なくなった。その二ヶ月後に彼はコンサルタントを雇った。最初からそうすべきだったのだ。ただ乗りはいけません。

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