2008年4月4日金曜日

直美24歳

15歳「自殺願望」の女の子.

両手首の傷はもう場所がないほど数が多い。どんな状況でこの世に産まれてきたのか知らないが、またどんな事情の中で育ったか知らないが、 未だこの世の生活たったの15年間だけだ。 

人生なんてまだ始まっていないではないか。それなのに死にたいという。

死への誘惑、それは甘美なもの。 あの誘惑は海の渚のように、押し寄せては、また引いていく。それの繰り返し。 何時かその誘惑にのってみたい。そんな経験なら誰にでもあるだろう。

女の子は、リストカットはすぐに見つかってしまうから駄目と悟ったようだ。そこで昨晩は、風呂の中へ電気スタンドを持ち込んで入浴をしようとしているところを見つかった。

今日もまた夜が来た。 勉強の時間も終わり、サロンでテレビとゲームの時間も終わった、みなが自分の部屋へ戻って寝る時間。

友達がベッドの中で睡眠をむさぼっている間に、女の子は何処からか盗んできた鋏でシーツを細く切り刻んで紐をつくる作業に余念が無い。
長い紐が出来上がった。

風呂場のシャワーにしっかりと結びつけた。その紐の先端を自分の首の周りに巻きつけ、一気にバスタブの端から降りた。

彼女はたったの15歳で一人旅へ出かけた。もう二度と帰ってこないつもりのこの世に彼女はどんなサヨナラをしたのだろうか。

他州からこの街へ移動中の心療クリニックがやっと稼動を始めた。 長い訓練期間も終わりやっと精神科医の助手(研修生)の仕事が始まった。

 短大の就職斡旋課の仕事も、夜のお仕事、ホテルのバーテンダーの仕事も辞めた。

この研修生の仕事一本で行きますと心に決めての初登板。投薬よりもカウンセリングを主体とする心療クリニック。 13歳から18歳まで、青年期の男女の病棟が我が愛する娘直美さんの管轄。 青年期の心療患者は精神科医を目指す人たちには誰もが一度は働きたい病棟であるとか、そして、ストレスが多すぎてみなが逃げる病棟でもあるそうだ。 

患者はアメリカ各州、イギリス、カナダ、インド、メキシコ、ヨーロッパ諸国から集まる。 親の経済力と英語圏であるなら入院できる。

自殺願望、拒食症、自閉症、登校拒否、躁欝症、あらゆる種類のADD(注意欠陥多動症症候群)性的虐待、暴力虐待、精神的虐待、精神分裂症、トラウマ障害、バイポーラ。

この病棟はパジャマを着て、投薬で一日中フラフラしている重症精神病患者たちとは違う。 平服を着、学業をつづけ、個室を持ち、寮生活に近い生活をしている。 その中で、カウンセリングを続け、規律のある生活の中で、世の中そんなに甘いものじゃないと訓練を受けるのだ。

入院患者には、さまざまな理由がある。 両親と隔離する必要のある子。学校の落ちこぼれ、登校拒否、小さな犯罪の結果裁判所の判定が少年院送りの代わりに心療所送りとなった子供たち。

直美の仕事は、学業時間、運動時間、食事時間、医者とのカウンセリン、グループカウンセリングのときいつも行動は一緒、患者の生活レポートを書くのだそうだ。ウオッチ マンである。直美の勤務時間は午後二時から夜の十一時まで。

相手が子供と甘く見てはいけない、ほとんどの患者は自分より背が高いと嘆いていた。 一癖ある子供たちがズラリと並んで、出来立てホヤホヤの研修生の初出勤にウスラ笑いを浮かべていたと直美君ボヤク。

IQが天才ではないかと間違えるほど高い子。父親がジェット機を持っている子。子供をこの病院へ入れて両親はヨーロッパへ世界旅行に出かけてクリスマスになっても、親が何処に居るか知らない子。

直美君ガンバレ

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