2008年4月11日金曜日

十五歳男子

十五歳男子。 この心療クリニックへ来てもう三ヶ月になる。そろそろ退院の準備が始まる。この心療クリニックは三ヶ月が一期間となり、その後も入院継続は、入院結果と両親と医者との話し合いとなる。 

少年は自分の父親から七年間の性的虐待による精神の壊れ、また父親からの隔離生活を強いられてこのクリニックに居る。世の中には本当にどうしようもなく悪い奴は居る、それを乗り越えて生きなければ成らないのがこの世だけれど、やはり幼い者が被害者だと胸が痛い。

三ヶ月のカウンセリングで、少しずつ現実を受け入れ、 それでも自分は生きて行かなければならいと再確認が出来始めた矢先に、父親の訪問を受けた。

病院スタッフ同席の上での父親との面会が始まって数分後に少年の怒りが爆発し彼は父親に飛び掛って行った。七年間延々と受けた虐待に初めて自分で立ち上がることを覚えたのだろうか。父親に殴るかかった少年を黙認するわけには行かないクリニック側としては、数人のスタッフによって少年を取り押さえ、父親には退席を要求してその場は済んだ。

気持ちの持っていく場所のなくなった少年は壁に向かって自分の体をぶつけ始めた、何度も何度も体当たり、そしてそれが頭に変わり、少年の頭から出血が始まった。それでも彼は止めない。血をタラタラと垂らしながらも自分の頭を壁にぶつけ続ける。

少年は最終的にはベッドに縛りつけられた。 彼がそれ以上自分を痛めつけないためにそうするより方法がないそうだ。

ベッドに縛り付けられるのはわずか十五分間、彼が少し冷静になればすぐに解いて貰える。その間は必ず誰かが少年の傍に寄り添っているそうだ。

実際の悲劇はこれではすまない。 少年が無事退院出来るとき、彼はまだ十八歳未満、それでは何処へ帰るのだろう。少年を虐待した父親の保護の下へ帰るか、養護施設か、それともフォスターホームである。

十八歳になり、法律的に独立出来る年齢になり、少年は一人、社会で生きて行くときまで自分の居る場所は自分で決められない。

なんともストレスの多い仕事である。 

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