直美と名の付いた小さな竜巻は真夜中に我が家へ飛び込んで来た、
家の中を数回旋回してまた明け方早く吹き荒れながら飛んでいった。
そんな表現がぴったりの娘の帰宅であった。 子供とはあれほどに存在感の大きいなものだとは知らなかった。
キャレンもまだ生きている。おかしな言い方だが まさにそれが相応しい言葉だ。
抗癌剤と放射線治療、それに加えてステアロイドの薬。 体を薬漬けにしても、彼女は病と闘っている。
髪の毛にブラッシをかけるのが怖いの、 大量の髪が抜けるからと笑う。
ステアロイドの副作用で下膨れの顔になり、 本当に人前に出るのは嫌なのだけれど、と口では言いながら、
訪ねて来た直美に一日二時間と許されている外出を使って、三日間はアチラのレストラン、
こちらのレストランと出かけて大食を披露していた。
14年間の友情を保っているキャレンと娘、それでは保護者である、彼女のかつてのジゴロ君、
現在は年下の夫君と私たち保護者も一緒に逢いましょうと食事をすることになった。
一か月前は、新たに脳腫瘍が見つかり、 後二週間と宣言を受けていたキャレンが、
私の目の前でレストランのメニューを眺め、前菜はロブスターのクリーム煮、メインはお魚ねと
ニコニコと注文している姿は想像だにしていなかった。 ふっくらとした顔はステアロイドの副作用だから
少し差し引いてねと、初対面の私と主人に嬉しげに笑う。
時折娘から、自己主張の激しい年上の友達と聴いていたが、 結局その自己主張と闘争心が
病気と闘わせているのだろう。 自分でも、私はファイターよと自称する。
抗がん剤治療を受け始めてから、癌の進行が早くなりあっけなく死を迎えるなどという話しを聴くたびに、
もしも、自分が癌の宣告をうけたら、「お願いだから抗がん剤治療だけは受けさせないで」、
と私は家族へ伝えてある。 それが私の遺言である。
しかし、彼女を見ていると私の遺言は少し早まったかナ?と気になる。
2 件のコメント:
一昔前までは、がんという病気は珍しいということで、その闘病記とか看護記などが本にもなりました。
人生の途中で命が絶たれるということはドラマの素材になったのでした。
しかし、今や、日本の場合、癌なんてポプュラーになってしまい、珍しくないのですね。
小生の周りでも、癌の治療を受けた経験がある人が多く、また、最近でも小生よりも若い人が癌で亡くなっています。
そこで、抗がん剤や放射線の治療をすると返って体力を消耗して、癌の進行を速めるという考え方が一般的になりました。
さらに、痛み止めの技術も進み、痛み止めのクスリを飲んでいたら治ってしまった・・・という例も聞きます。
実は、小生もその一人です。
痛くなければ、癌を気にすることもないし、無視された癌は、萎んでしまう傾向にあるようですよ。
ただ、早期発見、早期治療の原理は忘れてはならないようです。
小生のお話は、その次の段階のことです。
癌のお見舞いに行った人が、その帰りに交通事故に遭うこともあり、人の明日の命の保証が無いのは、癌とは関係ないようです。
あの世に行くことは、仕方が無いのですから、そんなことは行く直前に少し考えればよいことだと思っています。
それよりも、毎日を楽しく生きることだけを考えましょうよ。
死を免れた人は居ないのですから、 その日まで楽しく生きる、これが出来たらいいですね。
病気の苦しみ、自分の死を見つめる苦しみ、 去っていく哀しさ、やはり人間は煩悩の中に生きているのかもしれません。 誰がこの世は楽しい言ったのでしょう。
神も仏も この世は極楽とは言っていませんね。
その中で時折与えられる一瞬の楽しみだけを求める人生って少しむなしいです。
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