2007年10月24日水曜日

真実?

真実は人を傷つける。肥満の人に、貴女はデブね。ブスに、貴女は不美人ね。言ってはいけないことだ。この場合真実は言ってはいけない。それでは美人にあなたは綺麗ね。やせている人に貴女はスマートね。相手を喜ばせることならいいのかな。そうなると真実を言うとは、相手を喜ばす事柄なら宜しい。それではお世辞ではないか。

本当の事だから話すのよ、と前置きして、家族だから、 夫婦だから、親子だから、友達だから、貴女が知りたいと思うからよ、などと云いながら結構耳の痛いことを話して相手の気持ちを傷つける。真実は怖い。

だいぶ昔になるが、主人と彼の友人が別の部屋で酒を呑みながら話をしていた。友人の八年も連れ添った妻が四年間も浮気をしていたのが解った。実際にはその浮気は哀れにも相手の不実から終りが来てしまった。悲しく討ちのめされた妻は立ち上がることが出来ず、八年の歳月を暮らした最愛の夫に打ち明けた。

話を聞きながら、ヨヨと泣き崩れる妻の話を聞いて友人は腰が抜けた。冗談じゃない。いったい何年その男と浮気をしていたのだと問い詰める夫に妻は、エッ浮気?違うわよ、彼は仕事場の上司なの。私たちは純粋な恋愛をしていたの。それでは自分は何なのだ?と聞く夫に、もちろん貴方も好きよ。愛しているわ。でも彼は別なのよ。私はいつでも貴方には良い妻でいたはずよ。貴方は私に満足をしていたでしょう?教えて欲しいの、私はどうすれば良いの、何故そんなに怒るの?正直に話しているのよ。

正直に話された友人は、ふざけるな~ と怒鳴りそのまま家を出た。もちろん離婚である。二股をかけられた友人はすっかり女性不信になりもう二度と女は信用せんと息巻いている。いや少し違う、彼はもう一杯スコッチを注いで涙ぐんでいるようだ。

何が一番驚いたと思う?彼女はね~ 私は真実を言っているのにどうして私から逃げるの? 自分の妻が悲しい思いをしているのにどうして慰めてくれないの?私たち夫婦は何でも真実を話し合いましょうって約束したでしょう?
そう言って自分は責められた。僕って不誠実な男か?自分は彼女の浮気なんて知りたくなかった。

妻に浮気をされた経験のない我が主人に助言が出来るわけがないのだ。経験不足である。しかし好奇心とは恐ろしいもので、隣の部屋で本を読んでいるふりをしている私の耳がダンボの耳のように大きくなった。自分の夫がどんな意見を吐くかこの際しっかりと聞いておこうと思った。

真実は言ってはいけない。「本当の事」からこの世の中は混乱がくる。もしもだよ、もしも自分が浮気したとしよう、 自分は決して女房には言わないね。何故なら彼女の心を傷つけたくないから。
例えばだよ、自分が浮気相手とベッドに居たとしよう、そこに女房が入って来たとしよう、それでも決して、決して、横に寝ている女性が浮気相手だと言ってはいけないのだ。これは何かの間違いです。どうしてこのようになったのか自分でも解りません。わたしはこの人を知りません。誤解です。錯覚です。貴女は夢を見ているのです。どんなに問い詰められても、これで離婚しますと言われても決して自分は真実を言わないね。言ったら全てがおしまいになる。それは自分が妻の気持ちを尊重するからなのだ。君の奥さんは君への配慮に欠けたらしい。
ヘエ~そうかいナ、それでは何を信じて生きたらいいの?
その後もこの二人はモソモソと話し込んでいたが、私は聞くべき事は聞いた。

ウオルトデズニーの映画「バンビ」の中でサンパーという名前のウサギが出て来る。いつも余計なことを言っては問題を起こす嫌らわれ者のウサギ。ついに業をにやしたママウサギが「If you can not say nice thing, best not say anything」とサンパーに諭す。 この台詞は案外一般化されていろいろな箇所で使われている。 私自身も何度も息子の秋夫が腕白坊主の頃にこの台詞を言って聞かせた。本当に妹を泣かせることしか言わないからだ。しかしよく考えてみると、サンパーは決して嘘を言っているのではない。人が言わないでおこうとすることを口に出すだけなのだ。すなわち彼は「真実」を表現しているだけ。しかしこの台詞は、嫌がることは言わないでおこう。相手が喜ぶことだけを言う。それが言えないのなら、いっそのこと黙っていようと示唆している。なかなか難しい。

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