2007年10月30日火曜日

アパート

娘はまだ一人でアパート暮らしは心もとなくルームメイトを見つけた。専攻科目は違うが一緒に卒業したヘザー。同じ街に母親が居るが大学の一年生からアパート暮らし。それも一人ではない。同棲である。五歳年上の社会人。やっと未成年を出たばかりの女の子と同棲するとは不埒な男と云いたい。しかし逢ってみるとなんとも弱気な感じの優男だった。彼女たちの卒業式にニコニコと夫気取りで出席して来た。しかし間違っては困る。別にその男が彼女の学生生活を援助していたわけではない。同棲すなわちすべてが折半の四年間だった。その男にせめてもの私の嫌がらせ、「あなた四年もまえからこんな若い子と同棲なんて趣味悪いね」と言うだけだ。同じテーブルに居た娘は顔を真っ赤にして私を睨んでいたが、なに彼女の顔を見ないようにすればそれもわからんというものだ。

ヘザーは大学も卒業、就職口も決まり、数年は社会人として働き多少の貯蓄をしてから大学院へ行く計画を立てている。そこで心機一転身の回りの整理をしたい。彼女の下心は、社会人になれば又別の社会の男性との出会があるかもしれない。その期待を胸に抱いてこの際四年間一緒に暮らした男とはサヨナラをしようというのだ。そこで直美ちゃんがアパートを探していると知りルームメイトになることを提案した。「彼はどうするの?」 
「もう終わりにしようと思う」
「そんなこと出来るの?」
「出来るわよ、私がもうさよならしようって云えばどうしようもないでしょう?」
甘い、甘い。 世の中解ってないね。

初夏の土曜日、直美から呼び出しを受けた男性4名が集合した。父親、秋夫君、お邪魔虫、そして彼女の現在進行中のボーイフレンド、アダム。各自車を持ち寄り、 父親はピック アップトラックを持っているから家具は任せられる。筋肉の方はあまり頼りにならないが、労働の面では若くてピチピチしたのが三人居るから大丈夫、娘の号令一過すべての荷物を満載、5台の車は連隊を組んでアパートへ向かった。
見送った私は少しスカスカになった我が家で一抹の寂しさと、私の自由な時がやっと来たという嬉しさでニンマリ。彼女の門出であり、私の自由の身にもどる門出でもある。今晩はお祝いをしよう。 

夕方空トラックを運転して帰宅した主人はニヤニヤしている。 こちらが引越しをしているときヘザーも荷物運びに忙しかったが、彼女の「過去の人」のはずのアンドレも一生懸命自分のスーツなどを運び込んでいた。あの小さなアパートへ三人で暮らすらしいよ。

ヘザーとアンドレの話し合いはうまくいかなかった。彼女の別離の宣言に、僕は嫌です。
そろそろ自分は君との結婚を考えていたのに別れましようはないでしょう。何処までも君の行く所僕も行きます。かくして女の子二人のアパートへ一緒に入居して来た。

三人が二人用のアパートへ入ったんだ、まったくあれはアパートではないね、倉庫だよ。と笑う主人
「うそ、冗談でしょ?」
しかしこれがアメリカ人なのだ、主人も息子もなんと直美のボーイフレンドもアンドレが一緒に住むことに問題を感じない。
彼らはもう大人なんだ、自分たちでどうしたらうまく生活が成り立つか相談するだろうと動じない。

夕方娘から電話で報告があったとき、 自分のボーイフレンドが一緒に住むのは私には問題があるけど、ヘザーが同じアパートで彼と一緒に住むことを私が文句を言う意味がないという。 それに家賃が三等分になるし、みんな忙しい生活をしているから、三人が一緒になることは現在のスケジュールを見てもあまり機会はないと思う。あっても自分は少しもかまわない。 「それにママ、彼はゴミを出してくれるから便利だわ。」 彼女たちはゴミだし男がいつか粗大ゴミになることを知らない。

「世間体」という「天下の宝刀」を振り回す日本の母が知ったらどんな反応を出すことだろう。

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