2011年1月15日土曜日

キャレン 

彼女の名前はキャレン。 精神科の医者。 カウンセラーとして仕事を始めて今年で3年目。
キャレンは14年前に私の娘と一緒に大学の心理学科に入学して来た。 その時彼女は45歳。

カールした長い髪の毛を腰まで伸ばし、 昔のヒッピーかと想像するような一風変わった服装をして皆の注目を集めていたという。

キャレンには 離婚した夫との間に二人の息子が居る。その二人の息子も母親と同じ頃に大学生、他所の大学で学生生活を送っている。
一人孤軍奮闘して育てた息子二人がもう大学生として家を出た後に、自分もいつか終わらせたかった大学に戻ったと云うわけ。

自分の夢は精神科の医者になること。しかし、早くに結婚、 二人の子供の教育で今まで機会がなかった彼女には 今がチャンスである。 今から始めても、 五十代の初めには 博士号がもらえる。それまで頑張るのだと。

娘と一緒に毎日勉強に励みながらも、彼女も他の大学生と一緒に恋愛にも頑張っていた。 
12歳年下の男性とめぐり合い、恋愛をして、自宅で同棲生活も始めた。
時たま帰宅する二人の息子も、母親の遅い恋愛には至極理解を示し、 33歳の小説家志望のジゴロ君と二人の息子は結構うまく行っていた。

四年が過ぎ、キャレンと娘は一緒に大学を卒業、その後すぐに彼女は大学院へ進み、 娘の直美がやっと大学院を終わった頃には
彼女は博士号の勉強をしていたのである。  一時も休むこと無く、一直線に博士号まで進み、念願の精神科の医師となったのが 
三年前。 大学生活を始めてから11年の歳月が過ぎていた。 その間にキャレンの二人の息子も大学を出て、就職、結婚と順調な生活を進む中、
彼女もジゴロ君と念願の結婚もした。


今年の正月に直美がサンジェゴから帰宅した時、 今回はキャレンをお見舞いする大きな仕事があると話す。 
キャレンは現在肝臓癌の末期だそう。発見された時はすでに手遅れ状態。 医者の死の宣告は後六カ月と言われたが、現在はそれを三カ月延長している。しかし、体力が無い為抗がん剤の治療はもう絶っているという。
それでも、気分の良い時は 病院へ出勤して自分の患者のカウンセリングを週に二日は実行している。

何処かのレストランで逢いましょうと言っていたキャレンが、自宅へ来てくれと依頼され娘は彼女の家に出向いたが、
今日はダメな日なの。ベッドから出られないの。このまま失礼するは。それでも、訪ね来る直美を歓待したいと、
お茶を入れ、お菓子を作り、お茶を飲む時はベッドに入って良いでしょうと承諾を受けてから横になっていたそうだ。 
そして、 後一週間もしたら、太腿の方へ降りて行く大動脈の一部の血行が止まり、足の機能が働かなくなってきた為来週あたりにこの左足を太腿から切断するって医者に言われているの。 もう私の命が何日残っているか分からないのに、太腿を切断するのよ。 私の最後は一本足のない死体になるのよ。信じられる?

切らないで済む方法はあるのという質問に、 腐ってくる足を付けたままで居るのも嫌だしね、 足を切断するか、癌が全身を回りきるかどちらが先になるかしらね~ 。

帰宅した娘にアホな母親は愚かな質問をした 「キャレンはどうだった?」そして娘の返事は一言 「she is dying」。

心療クリニックで毎日30人ほどの「心の病」の人たちにカウンセリングをしている娘も、
14年来の大学時代の友人の壮絶な人生と死へ向かう姿にはさすがにがっくりと来たようだ。
ママね、キャレンは少しでも気分の良い日はまだ患者を診て行かなければ自分の医療費の支払いが出来ないのよ。
癌患者にはどんな素晴らしい保健があっても、支払いがそれ以上になってしまうから、 彼女は死ぬその日まで働くって張り切っていた。
その方がいいのかもしれないね、 ジッとベッドに寝て死を待つよりも、死ぬまで働くほうがいいのかもしれない。 自分の死の心配をする変わりに、 医療費の支払いの心配の方が良いかもしれない。 

2 件のコメント:

あらま さんのコメント...

キャレンさまには、心より、お見舞い申し上げます。
さて、日本では、2人に1人が癌になり、3人に1人が癌で死んでいるんだそうです。
つまり、この世に女として生まれるのか、男に生まれるのか・・・と、同じ確率の死に方なんですね。
そうは言っても、癌で死ぬということは、人生を全うするというよりも、途中で殺される・・・というイメージです。
不肖、小生も 26歳の時に初めて癌になりましたが、長男も生まれたので、そのことのほうか心配でした。
そして、その10年後に癌が再発した時、丁度、父が脳梗塞で倒れて、父の介護で自分の癌の心配をする暇がありませんでした。
また、その五年後に癌が再々発したとき、会社が傾き、母の認知症の介護で、さらに自分自身が交通事故で頚椎を痛め、自分の癌に構っていられませんでした。
どうやら、小生の癌は、そんなもんみたいです。
癌を自分の病気、自分の不幸・・・だと考えると進行するみたいですよ。

革袋の一滴 さんのコメント...

あらま様
大変な人生を歩んでいらっしゃる様子がお宅様のブログからは少しも読めませんでした。私の読みの浅さですかね。 心よりお見舞い申し上げます。癌と闘いながらも、生きていらっしゃる。 この世があらま様を必要としているのです。 まだまだするべき仕事が残っているのです。

キャレンも もうじき足が片方無くなっても、猛烈な闘志のある女性です。 まだまだ生き延びてくれるでしょう。
車椅子に乗りながら病院で患者を診ている姿が私には見えます。それは、精神の病の人たちには良い励みになるでしょう。