2007年9月21日金曜日

坂を下るように姑の老人性痴呆症は進み、もう一人暮は無理になった。
息子達は母親を介護付きのアパートへ入居させる手続きを始めた。
姑が入居した老人介護アパートは一人用にしては比較的大きめな寝室と小さな居間。トイレ風呂場そして小さなキッチンも付いている。食事付きであるが、自分のキッチンで簡単な食事の準備も出来る。毎朝同じ時間には看護師が部屋に訪れ投薬と身の回りのチエックをしてくれる。勿論部屋の掃除も、洗濯のサービス付き。

毎日家族の世話と仕事で忙しい私にはホテル暮らしに見えた。

施設が持つ何台ものミニバスで希望の個所へ買い物にも出かけられる。 娯楽も宗教も寄りどりでサービス隊が外から来てくれる。 クラフトのクラス、ダンスのクラスと盛り沢山。
 
個人生活が確立しているこの国では、老後を子供と暮らすという習慣はあまりない。子供達は18歳になれば皆両親の元を出て行く。又親達もそうして来た。

最近私が住む通りでも二組の夫婦が伴侶を数ヶ月の違いで亡くした。二人共1年間の間は1人住まいをしていたが、彼等の決断の時が来たのか前後して2人共持ち家を売って介護付きのアパートへ移っていった。
ご婦人の方は軽い脳梗塞を一度起こし多少の障害が残っているが1人で買い物へも行き、庭仕事もまだ張り切っていたように見受けたが娘達とその伴侶が来て二ヶ月ほど前にガレージセールをして余分なガラクタを売りさばき、きれいに掃除をして家を売りにだした。
もう1人は心臓麻痺からの生き返りと本人が言う。彼がリハビリの最中に介護をしていた奥さんが心臓発作であっけなく亡くなり、彼も1年間は犬と一緒に暮らしていたが、家具やガラクタの後始末をしてサヨナラをして行った。
 
我が家の姑は、自分の意志での人生の転換ではないゆえ多少の悲しい行き来はあったが収まるところに収まった。姑の生活は食事の時間ももう一人ではない、人との接触が毎日あれば少し人間性の快復があるだろうし、私達も何となく安心と結論を出さなければ。

引越しの手伝いもすみ、姑を1人置き去りにする一抹の寂しさも交えて、昼食を一緒にしてから帰ろうと硝子戸を開けて外へ出た。
 横一列に並ぶテラスのドアの向こう3軒両隣。その一つから老夫婦が姿をみせドアの前に置いてあるテラス用の椅子に座り膝の上に小皿を載せた。すると野良猫がキャフェテリアへ行く道すがらにある花壇の中で寝ていたらしくノコノコと現れて老人の膝にヒョッと乗り彼の手から餌を食べ始める。 なんとものどかな風景。施設の世話人が言うには、その夫婦の唯一の楽しみでもう半年も続いているという。
 誰も此処に住む人はあの猫に餌を与えない暗黙の約束があるらしく今のところは上手く行っていると話してくれた。

一ヶ月が過ぎ主人と私は姑を訪ねた。また昼食を一緒にするつもりで出かけた。時間が来て立ち上がり私はガラスのドアを開けた。又猫と老人を見たかった。しかしあのドアは閉まり、老人は居ない。 椅子も置いてない。おかしい。食事中私は姑に猫のことを話題にしてみた。彼女は健康な頃は常時4匹の猫は飼ていた猫好きなのだ。その姑がそんな猫は知らんという。知らないはずはない。そこで帰り際に事務所に立ち寄り聞いた。

「あーアレね。 貴女のお姑さんが入居の一週間後にあれに気が付いてね。彼女早速餌を買って来て皿に入れ自分のドアの前に置き始めたの。餌も水も常時そこにあれば猫はもう老人の膝へ行かなくてもいいでしょう?」
なんとマア、少し恥ずかしかった。どうして姑に注意をしないのかと尋ねる私に彼女は笑いながら説明する。 お姑さんのしたような嫌がらせは此処では毎日です。 皆さん年は取っていますけど、体にも少し障害がありますけど、オツムに少しボケが始まっていますけど、それは彼等が天使になるわけではないのですよ。この施設にも現実の世界とまったく同じように小競合い、嫌がらせ、悪も善も、被害者も加害者も居るんです。それに皆さん本当に暇ですからね。其れだけが楽しみらしいですよ。
なるほど 

2 件のコメント:

じゅんたろう さんのコメント...

この先自分の身に起こるかも知れないことです。費用のことを考えるとアメリカのような施設に入れる日本人は少ないのです。最低でも三千万円に入居費がかかり、それに月月の必要経費も入用です。それほどのお金を出せる人も居るでしょうがほんの一握りです。これ等の問題はいつも頭の底にこびりついています。あまりこのごろは聞かなくなりましたが「ぽっくりさん」信仰ってあれば良いナーと思います。
大体私は人前で食事が出来なのです。外食もしません。人を招いても私は殆ど口にしません。まして老人・ホームのようなところでは駄目です。 
ああ、ぽっくり様!
じゅんたろう 

革袋の一滴 さんのコメント...

ここHoustonには介護施設が日本のように行き渡っていませんから、老夫婦でも庭の手入れや、車の運転が不自由になりますと皆様介護付きのアパートへ移ります。普通 月1200ドルから1500ドル程度で二食付きです。 ですから年金内で暮らせるわけですね。  勿論段階はいくらでもあります。 上から下までね。
じゅんたろうさん、この問題は誰にも平等にきます。 本当にぽっくりと行きたいですね。同感です。