茶のみ友達、年老いて、伴侶を亡くし一人寂しく暮れ行く空を誰かと一緒にお茶でも飲んでゆっくりと過ごせたらと、そんな朴訥な雰囲気をこの言葉から受けるが、実際の生活の中での茶のみ友達を求め合うとはどのようなことなのだろう。
知人の中に五人の独身男性が見え隠れしている。皆中年以降、高齢者に近い。
ベアーは六十五歳。今年の正月に心臓発作で逝ってしまった。
三人の子供と妻。美術館の展示品の複製と修整が生業であったそうだ。しかし ベトナム戦争から帰還してから人が変わってしまい、家庭生活が出来なくなった被害者の一人だろう。
可愛い盛りの三人の子供を置いてある日手ぶらで家出をし、一切の連絡を絶ち、山に篭もったり、コロラドの雪の中に篭もったりと紆余曲折を通ってヒューストンにたどり付き新しい生活を始めた。
彼の長男が高校卒業のお祝いとして何が欲しいかという祖母の質問に、ヒューストンに住む父親に逢いに飛行機の切符が欲しいと頼んだ。 そのときから順番にどの子もベアーに逢いに来て親子のつながりは始まっていた。
今では二人の息子も一人の娘も家庭を持ち、可愛い子供と仕事に恵まれ、貧乏暮らしを今だ続けているのは父親だけであったろう。
そのベアーにはこの十年ほど同年代のガールフレンドが居た。 彼女は彫刻家。 ホッソリとした体には類(たぐい)まれな才能が詰っていることが解る。 彼女にはもう1つの才能がある。 白骨死体で見つかった殺人被害者の頭蓋骨から、その死者の生前の面影を作り出し、 「尋ね人」に提示できるようにする人なのだ。
車で十分ほどの処にお互いが家を持ち、適当に距離を保ち、喧嘩をすれば二 三日逢わずとも過ごせるなんとも羨ましい二人だった。 双方結婚は最初からする気が無いし、一緒に同居するつもりもない。適度に分かれているから続く二人なのだろう。 いつか二人でコロラドに土地を買い一緒に住もうと計画を話している内にベアーは逝ってしまった。
寂しい彼の生活がガールフレンドによって潤いを持ち、 朝のコーヒーを彼女の家で呑み、夕食を一人でする代わりに彼女がベアーの台所に来て一緒に料理を作る。
最近のベアーは心臓肥大で悩み、食事制限と時々の入院を繰り返していたが、最後の発作のときはガールフレンドの手で病院に運ばれ、彼女の手を握って目を瞑ることが出来た。幸せであったろう。
資産と云える物を持たない貧乏暮らしであったが、遺せるものはベアーが住んでいた土地家屋だけ。 そのわずかな彼の私物と土地家屋は遺書によって全てガールフレンドへと遺されていた。
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