2008年6月8日日曜日

セクシャル ハラスメント

ちょっと指を怪我したのですけど、バンドエイドありませんか?病院の廊下を歩いていたケントは十五歳の女性患者に呼び止められた。 可愛い指から血が出ている。その指を診たケントは、 ここで待ちなさい、今薬部屋から軟膏を持ってくるから。動かないで、ここで待っていなさい。

ントは今年三十歳。六フィートの長身と波打つ金髪。国際看護師を目指す男性。正看護師になり、米国内と限らずヨーロッパ間や世界中を歩きたいと 希望している。子供の頃は母親と二人でいろいろな国を旅して歩いた。 ヨーロッパへも行った。日本へも行った。しかし今度は仕事として外国を回りたいと望み、看護師になることに目的をきめた。 国際看護師は要請のある土地で一年二年と契約内をその土地の病院で働き、また要望があればどこの土地の病院へでも飛んでいく。看護師の絶 対数の足りない昨今このような仕事があるのだそうだ。

 高校を出てから軍隊へ四年、それから大学へと進んでいるから看護師としては少し出だしが遅いが、母一人、子一人、自分の職業を持ち人生を歩んでいる母親は息子の希望に賛成してくれる。 後顧の憂いなし。今は診療クリニックで見習いをしている。

から血を出す少女に、ここで待ちなさいと言ったが、その少女はケントの後を就いて歩きだした。彼が薬部屋のドアを開け一歩中へ入った後へ少女も滑り込みドアを閉めた。 棚から軟膏と バンドエイドを手に持ち振り返った彼はそこに当の患者が立って居ることに気がつき、すぐにその場で治療を与え、わずか数分後には二人でその部屋を出たがその場を他の患者 と看護婦が見ていた。

誰も居ない部屋から二人がドアを開けて出てきたというそれだけのこと、彼としては何も不思議には思わなかったが、その日の夕方ケントは事務局の委員長室へ呼ばれ、セクシャル ハラスメントとして解雇の勧告を受けた。若い女性の患者と病棟ではない部屋に入り、ドアを閉めて其処に居たというだけで、見かたによるとセクシャル ハラスメントになるのだ。病院側としてはそのような配慮の利かないスタッフを置いておくわけにはいかない、何所で誰がみているか分らないスタッフ側から人に指を指される行いは困る。

どのような職業にしろ、この就職難の時代に解雇の過去は困る。次の就職先を閉ざされると同じであろうし、理由がセクシャル ハラスメントではまず若い彼の将来はこの世界では無いと同じだ。 一瞬脳天を叩かれたよ うな衝撃を受けたが、彼も僅かなところで立ち直り、その解雇の通達を一分待ってもらうよう頼み、その場で辞表を出しセクシャル ハラスメントの汚名からは 逃れることが出来た。

セクシャル ハラスメントへの疑惑はゼロ トレランス (非寛容)が常識となっている昨今では、被害者側、第三者側からの報告だけで、疑惑だけで、罰せられる。疑わしくは罰せずはこの種類の犯罪には通じない。

加害者の疑いを受けた彼が実際には被害者になってしまった。彼がこの問題からどれだけ学んだが知らない。自分の至らなさ、注意の怠慢を悔やんだことだろう。辞職と共に経済的にピンチになった彼は生活面でダメージを受け、再就職の道もなく、アパートの支払も出来ず、仕方なく母親のもとへ帰り立ち直りに少しの間が必要であったが、この九月から彼はこの街を出て他州の国際看護学校へ入学もう一度目的に向かって進む準備をしている。

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