2007年8月14日火曜日

パートタイマー

車の免許証は手に入ったが秋夫君もガソリン代を稼がないことには車は動かない。  車はママのを使えるが、ぶっ飛ばす車のガソリン代まで親がかりとは少し無理だろう。 そこでアメリカの高校生は仕事を見つける。 彼等の父親の時代は近所の家の庭の芝刈りが結構な収入源だったが、一時期はベトナム難民がグループになって仕事を始めていたが何時の間にかそれがメキシコ人の仕事に入れ替わっている。 グループの一人がわずかの英語を話すだけで仕事は成り立つ。 客が余計な仕事や文句を言っても、「言葉ワカリマセーン」でおしまい。 彼等はトラックに数台の芝刈り機や諸々の工具を積み込み4人5人とグループになって各家庭のドアを叩くようになれば、一匹狼の高校生たちでは太刀打ちできない。高校生が二時間かけてする一つの庭の芝刈りを四人の男が二十分で済ませ、隣の庭、またその隣の庭と大量生産並で芝を刈っていく。そこで少年達は身分証明証(ID)提示と尿検査の必要な職場へと流れていく。故にアメリカの若者は十代から所得税、失業保険税、老後年金を払い始める。
 ハンバーガー店、レストラン、 グローサリー(食料品が主なスーパーマーケット)の店員、薬局の店員、ピッザ店、などなど仕事はやる気があればいくらでもある。


秋夫も二流のレストランのバスボーイから始めた。 客の食後のテーブル掃除と皿洗いである。一時間5ドル、夕方から閉店まで、週3日私が仕事から帰宅すると待ってましたと私の車に飛び乗りセッセと稼ぎに行く。社会勉強の第一歩。 お金の有り難さと社会の理不尽さも一緒に勉強してくれる。高校生や大学生のする仕事には小売業の客との接触する仕事が多い、彼等には良い勉強である。 早くに職場の嫌がらせや、客の横柄な態度や理不尽を嫌になるほど見せられるわけだ。しかし客あしらいを悪くすれば即時首である。 次の日からの職探しを考えたらやはり言いたい言葉も飲み込んでニコニコすることを学ぶ。パートタイマーには職の訓練はするが、客の扱いに関しての訓練はしてくれない。 皆自分で覚えるのだ。 レストランで仕事をして客扱いが悪ければチップは望めない。 グローサリーで客と問題を起こしたり、相手に不愉快な思いをさせれば客は直ぐに支配人に報告する。普通苦情三度で職を失う。店によっては三度まで待ってくれない。
このように現場を見ながら社会勉強をする、その間に一生涯こんな仕事をしていたくないと思えば学校の勉強に身も入るというものだ。

若いときに要らぬ苦労をさせるよりも子供はおっとりと育てたほうが良いという考えもあるだろう。でも自分が痛みを感じるから人の痛みも解るという育て方も又一つ。
  
自分の子供が社会の端で仕事を始めるようになると、親自身も少し社会に目を向けることも学ぶようになる。 ピッザの配達に、「遅かったわね」という代わりに「有難う、ご苦労さん」と言葉も変わり、レストランでテーブルや床を汚しても、「悪かったわね、ごめんなさい」と掃除をしている店員に自然に謝れるようになった。 

自分の息子がアルバイトの年齢になるとは、彼の友達も同じである。 グローサリーストアーで大きなリンゴを選りすぐっていたら店員が後ろから「秋夫のお母さんでしょ こんにちは」と声を掛けられる。
買い物を車に積み終わり、店員にチップを渡すと「秋夫のお母さん有難う」と来る。チップの額を気にしてこちらはドキッと来る。近所のレストランにも友達があちらこちらで働き初めているから気が落ち着かない。
 
先日主人と二人で食事に出た。 翌日「ママのチップが昨晩の彼の最高だったって、サンキューって言ってたよ」本当に落ちつかない。高校の中で日本人の母親を持っているのは秋夫君一人なんだからやはり目立つのかもしれない。兎に角一度見られたら彼等は私を覚えてしまう。迷惑である。

まだ中学生の直美ちゃんが欲しい人形があるの、「たったの10ドルよ」と話すのを聞きつけて「10ドル稼ぐのに僕は何枚の皿を洗うか知っている?」と妹に聞いている。

世の中は金次第のアメリカ的子供の育て方には批判もあるかもしれない。 日本人が嫌やがるのがチップ制度だ。だが本当は日本の旅行者はその心配をする必要がないのだ。何故なら日本人がチップを置かないのはもう知られているから。 レストランで普通15%から18%のチップが常識になっている今日この頃だが、ウエイターやウエイトレスの基本給は普通2ドルから3ドルと低い。彼等はチップが収入が収入源と決まっている。サービスをして稼ぎ出す仕事だそうだ。コックや皿洗いはチップを受け取らないが基本給も彼等よりも高い。
これは高給レストランでも同じだそう。  そこでサービスが彼等の勝負となる。少しまともなレストランへ行くと殆どがウエイターで占められ、彼等は実に機敏に動く。 客の目線一つでサーッとテーブルに来て何か欲しい物はないかと聞く。週末などは彼等のチップは一晩で四百ドルを出ることもあるそうだ。医者やエンジニアーの卵、若い会社員が子供が生まれ妻が又仕事へ戻れるまで自分はウエイターをして副収入を得るなどといろいろある。
せっかく働いて見入りが無くては意味がない。サービスすることで収入が増すならサービスします。 それだけのこと。 その代わり客の側も気に入らなければチップの額で表現をすればよい。 もう二度と来るものかと思えば一銭も置かなくても誰も何も言わない。 客が不愉快だったのだと彼等が悟るだけ。
 
そこでいつも私が不愉快に思うのは、日本食のレストランだ。彼等はサービス料として18%をもう請求書に加えてくる。請求書の一箇所に明記してあるが、楽しい食事と快い酒による酔いと薄暗いレストランの光の中でそ明細書の項目などあまり読まない。そして明細書の最後にチップの欄が必ずあるからついつい其処に18%を加算してサインをする。 客がチップを置けばそれは黙って受け取る。サービス料とはサービスをしてもらわなければこちらは支払う義務はないのだが、たいしたこともせず請求されては困るのだが。 レストランへ入って食事を注文してそれをテーブルまでもってきてもらうのはサービスには入らない、問題はその後だ。 客が他に何を必要としているか? ナプキンは有るか、飲み物は有るか、他に何か注文したい品があるかと気を配る、結構な支払いをするのだ、今晩は楽しかったな、こうやって下へも置かないサービスもたまには良いものだと感じさせてもらわなければ 15-18%を出すのは辛い。それがサービスである。若いハンサムなウエーターが私の注文品を前に置き、今晩はごゆっくりとお楽しみくださいとニッコリされれば、前に座っている少しくたびれた連れ合いがチップを置くのに文句など言わない。  

この街の日本食レストランは、チップを全部集めてキッチンのコック達と一緒に頭割りで分けると聞く。自分のサービスの見入りが全部彼女達に行くのではない。それゆえか、まず日本食店のウエイトレスのサービスを期待しないほうがよい。アメリカのレストランでステーキの焼き方が悪いと突っ返すことは出来る。 レアを注文したのにこれは焼きすぎだから困ると言えば焼きなおしてきますと注文とおりのステーキを持ってきてくれる。
日本食のレストランで気に入らないからと返すと「キッチンに持ち帰り別のを持ってきますが、この品の料金はチャント頂きますよ」と恥ずかしげもなく言う。誰が一食しか食べないのに二食分支払うか、結局それならいいわよ「食べればいいんでしょう」となる。
寿司を注文したが、何となく幾つかの握りの上に乗っている魚の鮮度が悪そう。ウエーターに理由を言ってこれ食べられないはといったら、あーそうですかと私の皿から取り払ってくれた。 しかしそれだけである。 一緒にいた友人が、別のお寿司をもってこないの?と聞いたら? 「あのー嫌だったんでしょう。 ですからとりはらったのです。当店では品物の換えは致しませんといわれた。 こうなると怒りなどは湧かないおかしくて笑いこけた。 でもサービス料18%が請求書に加えられていた。 
小倉アイスを注文して、上に乗っているアイスクリームはいらないから取りはずして欲しい。かき氷とあんこだけにしてもらえないかと頼んだ、勿論アイスクリーム代は払いますと言ったが、 小倉アイスにアイスクリームがのって来た。何故と聞いたら、小倉アイス程度に特別注文は受け付けませんと言われた。

最近の話である。その日は直美ちゃんの新しいボーイフレンドに日本食を紹介したいという彼女の希望から起きた。もう食卓にはお寿司に天婦羅、焼き鳥、茶碗蒸と一般的な日本食が並んでいた。本当はおでんも欲しかったがこの街でおでんは中々見つからない。元気な若者はいくら食べてもまだ済ました顔をしている、どうやら底なし沼のような腹を持っているらしい。 そこで鰻の蒲焼をと考えてメニューを見たら「うな重」としか書いてない。ウエートレスに鰻とご飯を別々に注文できるかと聞いた、返事は出来ません。  それでは、うな重を注文するから上の鰻はお皿に載せて、ご飯はお茶碗にいれて下さいなと頼んだ。もちろん出てきたのは「うな重」である。そして山椒の粉を下さいと言ったら黒胡椒が出てきた。これもれっきとした日本食のレストランである。
しかしウエートレスは韓国人だという。 それもまだ英語の出来ない女の子。メニューを指で指し番号を書き取るだけの仕事。日本語もダメ、英語もダメではどうやってこちらの希望を知らせることが出来るのだろう。経営者が最初から、メニューの中のものだけを黙って注文してくれと意志表示しているだろうか。 
   

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