2007年8月1日水曜日

ボーイスカウト 2 ジャンボリー

全世界のボーイスカウトの結集がワシントンの郊外で四年毎に開催される。
「ボーイスカウト国際大会」である。 二週間の長さで世界中の少年が彼等の情報、技術、親睦の交換をする。スカウトに所属する少年なら一度は参加したい大キャンプである。

この時までの歴代アメリカ大統領は必ずこの大会で世界のボーイスカウトへ向かって演説をするのも恒例のひとつ。又歴代大統領が皆少年の頃ボーイスカウトの隊員であったことも親しまれてきたひとつに加えられているのだそう。しかし、それもこの年までのこと、次期大統領のクリントンの時代になり、彼は隊員であった過去がなかったことと、そこ頃論争の最中だった「スカウトの同性愛者参加禁止」にたいするクリントン氏のプロテストとして始めてアメリカ大統領の演説は中止になった。

十四歳以上の隊員が参加を許可される。 十一歳から十八歳で終わるスカウトに四年に一度の開催ではどの子も参加は一度しか機会がないことになる。今年を逃せば秋夫君ももうチャンスはない。経費は一応自己負担となる。飛行機代、二週間のキャンプ費、いろいろなイベントへの参加料、世界から集まるために突発事故への対策として保険料がバカ高い。わずかな金額では参加できることではない、そこで個人負担を少しでも少なくする為に、各隊ではあちこちに援助を求める。放課後や週末に少年達が制服を着て各商店、企業へ寄付を募りに歩く。

ある旅行社を営む婦人が隊に条件を出した。  二年ほど手入れをしていない空家を売りに出すつもりだが、その家の庭の手入を隊員がしてくれたら一人分の飛行機の切符代を出すと提案した。 くじ引きの結果それが秋夫君に来た。 

週末秋夫君と父親は芝刈り機、エッジャー、チェインソー、ウイールバロー(一輪の手押し)シャベル、鎌、と考える限りの道具と水とサンドイッチを持って出かけた。

住宅街を離れてだいぶ運転するが目的地にはまだ遠い。旧道を南に走って暫く進むとほどなく目指す門が見えた。野中の一軒屋。どうりで二年も手入れをしなくても市から文句が出なかったわけである。車を降り、門の内へ一歩?? 庭がない。ジャングルがあった。雑草は一メートルの高さ。木と木は枝葉がお互いに絡まりもう森林と言いたい風景。 恐る恐る主人が手に持っているメモを見た。 広さなんと二エーカー。 
秋夫君真っ青になって「お父さん、僕一人じゃないよね。 お父さんも手伝ってくれるよね」とビビッテいる。  
少し青い顔をしていた主人も一つ大きく深呼吸をして

「さあ 始めるゾー」とチェインーソーを手にしてジャングルに入っていく父親の後を行く秋夫君がなんとも情けなそうで、そこに二人を置き去りにする私の胸は少し疼いた。

四週間の週末を通い続けて働いたが二人の男のする仕事ではジャングルは一向に人並みの庭には変化してくれない。この土地は亜熱帯で、雨が多く、太陽光線も強いため、木々の育ちは早い。 その間に肥満隊の予備軍だった主人は少しスマートになり、秋夫君は少し筋肉がついたようだ。

当の婦人が様子を見に来て自分の提案が少し過酷であったことを認め、一応仕事は打ち切りになった。

秋夫君はそれでも一人前の飛行機の切符代をスカウトの預金箱へ寄付することが出来た。

何キロも痩せ、体中傷だらけになり、風呂上りには救急箱へ手にして、あちらこちらとバンソウコウを貼っている主人がか細い声でぼやいた。 
「これで息子は飛行機の切符一枚の重みが解ったかナー」


犬の品評会の糞掃除、車椅子の人たちの集まりの奉仕、飛行機ショウなどいろいろなイベントの群衆整理、大会のテント張りとスカウトへの奉仕活動の以来は春先になると毎週のように来る。それを一つ一つ出かけて行く息子だが、今回ほど肉体を酷使した奉仕活動はまずなかったはずだ、良い思い出になってくれればいい。

二週後にはこの州から参加するスカウト達のチャーター機はワシントンDCへと飛び立って行った。ちなみにこの時のアメリカ大統領は父親のブッシュ大統領。 秋夫君はしっかりと彼の演説を聞いて来た。

2 件のコメント:

じゅんたろう さんのコメント...

なんともうらやましい経験です。 幼い時から「奉仕」と云う事を学べるアメリカの環境は日本にはありません。 社会に出て成功し立派な生活が出来るには如何すれば良いかのシナリオのみです。 他を返りみると言う経験が無いまま社会に出てしまいます。 あえて言うならクラブ活動(部活といいます)では割合他との協力を学べます。 それも自分自身気が付けばの話です。
じゅんたろう

革袋の一滴 さんのコメント...

じゅんたろうさんコメントありがとうございます。 
愛の表現を示す。 その生活が根本になっているのだではないでしょうか? 確かにボーイスカウトでは徹底的に奉仕を学びます。 大人も子供も一生懸命に社会に奉仕します。又スカウトは父親のサポートなしでは子供が長続き出来ない組織でもあるのです。沢山の少年が入隊しますが、 2―3年後には消えていくのは父親が一緒に参加できないケースが多いです。 週末のキャンプにしてもリードするのは父親達です。 自分は仕事でくたびれているから、子供だけキャンプに出し、自分は自宅で仕事の続きとかゴルフをしている父親とかの家庭の雰囲気では子供自身が気持ちの負担を感じるのでしょう止めて行きます。結局子は親の背中を見て育つのですね。 親が社会に奉仕しないで子供だけその世界へいれるわけには行きません。