2007年7月7日土曜日

初めての鹿狩り

毎年十一月第一週は鹿狩りの解禁日。可愛いバンビが孤児になる季節。哀悼の意を表します。
我が家の主人は自称ハンター。猟シーズンが過ぎると冷凍庫に哀れにも解体された鹿肉がソーセージ、ひき肉、ステーキとなって眠る。
娘の直美ちゃんは一徹して小鹿が可哀想と食さない。食卓に出されたものは必ず食べるのを躾と子供を育てているが、鹿肉に関しては私も大目にみる。「反対勢力」も意味のあるものなら、そこはそれ政府も考慮しなければいけない。

獲物を持ち帰った男達には鹿肉は牛のヒレ肉より美味らしい。大鹿を二頭も持ち込まれるとこちらは一年中何かと言えばそれを食卓に出すように強制される。 本当は懇願するのだが、鹿肉の嫌な私には強制と感じる。
カレー、シチューなど長時間煮込むが何故かあまりやわらかくならない。どだい脂のない肉は美味しくない。トンカツのように衣をつけて揚げたほうがいくらか食べられるが。一般に皆ソーセージをつくる。
 
我が家でも一度試したことがある。肉屋から腸詰めの袋を買い、豚肉と混ぜてひき肉にし、香辛料を加え、腸の中へ詰め込む。挽き肉器から搾り出す肉を破かないように詰めるのにはやはり練習がいる。ゆっくりと押し出して、ヤレヤレ一本、二本と出来たがそこまでで主人は台所から消えた。
「君もやってみたいだろう?」とエプロンを手渡してそれきり、この先がない。仕事だ、時間がない。疲れたと逃げるだけ。そして又週末が来るとイソイソと猟銃を持ってお泊りに行く。しかし、鹿肉一頭分の肉と大量の豚肉は冷蔵庫の中で出番を待ている。結局妻の仕事となり、生肉と血の臭いと戦いならがのにわか肉屋は頭が痛くなる。 最初からする気もないのが強制労働の果てのソーセージは日曜日の朝食に姿を表すとあの臭いが戻り食が細くなるのは致し方ない。

今年の解禁日には息子を同行することに決まった。ある大きな農場主からの招待で数人のハンターが集まり、冬に備えて農場近辺の鹿の数を減らす。冬場に食べる物が見つからない鹿が民家や農場を荒らすのは致し方ないが、やはり荒らされる側には彼等の理屈があるのだろう。死活問題だそう。しかしそこにもルールがある。 その季節によって雄が多いとき雌が多いときで規則は変わり、 普通一人のハンターは一シーズンで二頭までが決まり。月ぎめで牡鹿と雌鹿の獲る時期も違う。又獲れる牡鹿は角が付いている必要がある。 子供の牡鹿にも小さな角がある。そこで、角は普通の男性の結婚指輪のサイズほどの太さを角と呼ぶ。昔から猟は食べるだけ獲れというのが規律だから、友人が肉が欲しいと言うからとか、獲るのが面白いからとその季節で決められた規律以上をハントすることは禁じられている。

秋夫君の初めての猟。銃の扱いの再訓練、射撃場でのライフル射撃の練習、夜はガレージで弾造りの仕事。毎夜遅くまで薬きょうを並べ、鉛を溶かし、火薬を詰めてと父と息子の楽しい時は流れる。世の父親達が息子へ順繰りに伝えていく男の世界の習慣は見ていて微笑ましい。

解禁日が近ずくと男達は髭を剃るのを止める。 山男を装う為だ。 動物は臭いに敏感だからと猟場でアフターシェーブなどご法度。石鹸の臭いも彼等に悟られるそうだから無論シャワーも浴びない。
朝食には彼等はキャンプ場でコーヒーも沸かす、ベーコンも焼く、中には葉巻を吸う男も居る。その臭いはどうなるのだろうと聞いたが返事は来なかった。

髭だらけのハンターに混ざったヒョロヒョロの16歳の少年が一人前にお父さんのライフルを腰の脇に下げ、各々決められたブラインドへ消える。 二メートル近いやぐらの上に備えられた木箱。半畳ほどの広さの木箱に座ると目の高さの個所に二十センチほどの開きがある。そこから見張り、ライフルの突端を突き出す。人によっては木の上に登り待つ。 一時間、二時間、三時間と待つ間聞えてくるのは鳥のさえずりや子動物の走る音。秋夫君の父親がこよなく愛する静寂の時間。 

二日目、息を静めて待つこと二時間。牡鹿がヒョイと首を出した。 三十メートルほど離れたブラインドに居る父親にも見えた、彼は心の中で囁いた「息子よ今だ」秋夫君の一発 ズドーン見事に仕留めた。

最近では一般のハンターは獲物をそのままトラックに積み肉屋に持って行けば処理してくれる。一週間もして受け取りに行けば、ソーセージ、ステーキ肉と書き込んだ包みを手渡してくれる。しかしこのグループはそれを認めない。自分の獲物は最後まで自分で面倒をみる。秋夫君も荒縄で牡鹿を縛り、その端を肩にかけズルッ ズルッとキャンプ場まで引っ張る。大木の枝に鹿を吊るす。男達はその場に輪になり、父親がバックナイフを息子に手渡し皮剥ぎの作業に取り掛かる。
ビールの呑みながら男達は秋夫君に頑張れと声援をおくり最後に一人の男が鹿の後ろ足二本の真中にある突起物をしっかりと掴み下へ引っ張れと言った。素直にそれに従った秋夫君は牡鹿から最後の仕返しを受け飛び跳ねる。
農場主から、秋夫おめでとうとビールを一本手渡され、始めてのビールを瓶ごともらいラッパ呑みを許された。

1 件のコメント:

じゅんたろう さんのコメント...

なんと豪快なものですね。 泊りがけと言うことはお家の近くではないのですね。 アメリカの鹿って、あの大きなのでしょう。
昔トリノで一度食べたことがあります。 やわらかかったのですが? 何しろ量が多くて食べきれないものでした。 後レンガほどの大きさにして塩をまぶし屋根に放り上げカチカチになったものをスライスして食べていました。 野生だからかたいのでしょうか。 
しかしまるで西部劇の世界ですよ。 やはり肉食人種と稲作人種の違いでしょうか、日本ではせいぜい猪か猿の害に困るぐらいです。 しかし最近北海道では蝦夷鹿の被害が云われ始めました。