2009年1月14日水曜日

お豆 2

朝九時に出廷せよ。 そんな気分で整形外科医のドアと叩いた。 医者の予約日を、感謝祭があるから、 クリスマスが来るから、サンジェゴへ行くからと出来うる限りの云い訳を使って引き伸ばしてきたが、ついに長年連れ添ったお豆さんとお別れの日。 

レントゲンで診ると、かかとの骨の先に直角に何かが生えている。 医者に何ですかと訊いても分からないという。 切り取って検査しなければ返事が出来ないそうだ。 
それでは、
過去にこんな症状の患者を診ましたか?の質問に、
居ましたよ。 時々こんな患者がきます。
それで、それらは何でした?
いろいろでしたネ。
まるっきり頼りにならない医者ジャ。

たかだか、本当にたかだか、かかとの先のお豆をえぐるのになんと全身麻酔をするのだそうだ。 冗談じゃない、 局部麻酔でいいでしょう?と訊いたが、 骨を削るのに耐えられますかと嫌なことを云う。 

ベッドに寝かされ、 心電図の先を背中に貼り付け、(うつ伏せになるから背中なのだそうだ)シャワーキャップを被せられて、手術室へ直行。ハイ麻酔を打ちますと云われたとたん私は眠ってしまった。
またやってしまったのだ。
 
 34年前に息子を帝王切開で産んだときも、もろもろの事情から緊急切開だったがその前に多少の陣痛はあった。 しかし、 数分おきに来る陣痛が始まると私はカクンと眠ってしまう。 ほらー痛みが来ると聞いた途端にカクンを繰り返すのを姑と主人と医者がベッドの脇でそれを見ている。 姑が「あらイヤダ この子眠っているよ」と大声で言って呆れている。「このクソババー出て行け」と怒鳴りたかったが声にならない。 
後で、あれは痛みで気絶したのだと云い訳を云ったが、主人は信じてくれない。 「気絶した人がイビキかくかな~」それを境に私の主人への愛情が薄らいだことは責めないで欲しい。

目が覚めたらまた元の部屋。 麻酔医がニコニコしている。  
「それで手術はいつですか?」と聞く私に、 「もう済みましたよ、よく眠っていましたね、コーヒーでも飲みますか?」コーヒーカップを手渡してくれるこの真に親切なお医者さんが私は気に入った。それに若い。

しかし、シーツを剥がしてみたら私の右足は膝の処までフャイバーグラスで固められあった。
昔は石膏を使ったのだろうが、叩くと音がする。松葉杖が良いですか? それともウオーカーにしますか?一週間は右足を床に付けないで下さいね。床に付けるも何もない。 丸太状の足でどうやって歩くの。 

あれから五日、私は家の中でウオーカーのお世話にならないと体の移動が出来ないというみじめな毎日を過ごしている。

コーヒーカップを手に持って歩く事が出来ない。本を取りに行っても、それを持って歩けない。片手が留守になるとウオーカーが持てない。ゲッと思う事の繰り返しである。 そして副作用は、両腕が痛い。自分の体を持ち上げて歩くのだから腕立て伏せまがいの運動と同じだ。
足の痛さ、のどの痛さ、これは呼吸をするためにのどに何かを指し込んだらしい、そして全身に来る筋肉痛。  本当にたかだかかかとのお豆一つに良くもこんなに大袈裟なことが出来るものだと感心する。 これはさしずめ病院の料金稼ぎの仕業ではないかと思う。それ以来考えられない。 だから私は病院が嫌いだ。みんなでよってたかって私をいじめる。
 
娘に電話で嘆いたら、 ママ、治ってもそのウオーカーを使うと、筋肉が引き締まるね。などと云うし、 差し入れをしてくれた友人は、そのウオーカーはあなたの将来の為に持っていたほうがいいわよ。  いずれそれが必要になるから、などとつれない事を言う。 
心と体の痛みなどは所詮本人しか分からない。

 しかし一番余波を受けたのは我が家の亭主クン。 気の毒に、料理、洗たく、掃除と私の世話、訪ねてくれた私の友人にお茶とクッキーを出して、なれない仕事でフラフラになっている。まあこれは、私に相談なく医者にわたしを売った償いが今来ているのだろう。
 そして四日目には朝6時、まだ私が眠っているうちにそっと起きて仕事へ逃げてしまった。哀れな歩けない妻を家に一人取り残して。 気奴私を私を兵糧攻めにするつもりかと思ったが一応冷蔵庫に食糧は詰まっているから文句は言えない。

1 件のコメント:

じゅんたろう さんのコメント...

この所忙しくてPCを開いていませんでした、そんな難儀をされているとは!
ひょとして”ガングリオン”というものではなかったのでしょうか?私も左くるぶしの外側に親指大のものがあります。両膝頭にもあります。それこそ豆のような大きさです。確かにこれがかかとなら歩けないだろうなと思います。医者は切除する必要はないと申します。この間スキーへ行った時シューズにすれてかなり痛かったのですが、普段はくるぶしを覆うような履物ではないのでそのままにしています。
もう直ぐ”豆まき”です。”鬼は外!”お大事に。
じゅんたろう