2008年5月7日水曜日

ダンテ




我が家の同居人。 捨て子。わたしはこの猫をそう呼んでいる。 娘が大学生のとき、庭に近所の猫が迷い込むと皿に餌を入れて追っかけていたのを見てなんとなく可哀想になり、ペット孤児院へ連れて行きこの猫を買い取った。

しかし養子縁組をする規則は思いのほか厳しく、里親の口頭尋問があるのには失笑した。学生であるなら、毎日家を空けますね、それではこの猫が家で一匹(一人)になるのは通常何時間ほどか?

一日六時間以上家を空けるようでは困ります。猫の爪の切り方をご存じですが、知らなければお見せします。 ミルクはあげないでください。医者の検診は忘れないで下さい。

この猫の住む家の同居人は何人ですか?すべての同居人の同意が必要ですと娘の父親の事務所まで電話をして確認を得ていた。

最後に里親は右手をあげて、「よき母親になります」と宣誓までして連れてきた里子だ。

しかし大学を卒業したとたん、世の中の常として彼女はサッサとアパートを借りて出て行った。その時にこのダンテ君(彼の名前)を非情にも置きざりにして。

子供は連れて行けと主張し、直美のアパートへの引っ越しの日には猫用のバックサックを作り負ぶわせ、小さな帽子をかぶせて前へ押し出し、「ママ僕も準備出来たよ」と言わせたのだが。狭いアパートで自分一人の愛を受けるよりも、ジーチャン、バーチャンの家に居れば、広い活動範囲の家と二つの愛と豊な食生活がある故にそれは子への愛情であるとホザイタ。子供が可愛いから置いていく私の身も悲しいのだそうだ。

わたしはこの猫を「親に捨てられた猫] と呼ぶ。しかし間違ってもらっては困る。ダンテは決してひねくれてはいない。むしろ大きな顔をしてこの家に住みつづける。二週おきに母親が山のような洗濯物と空のタッパー持参で栄養補給に来ても、最初のうちは母親恋しやと胸に飛びついて行ったが、今は「どこの馬の骨が来たか」と素知らぬ風である、娘のほうが気をひこうと焦っても「僕は知らん」とそっぽを向く。

甘え放題に甘えて態度の大きくなるダンテに時たま娘から抗議がでる。 お母さんそれはしつけにはならないでしょう、しかしわたしには返す言葉がある。「あらそうかしら、 孫を連れてきたときの予行練習のつもりだけどね」

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